第49話:戦い終わって
「「テツヤ!」」
俺を呼ぶ声が聞こえる。
目を開くと目の前にアマーリアとソラノがいた。
気が付くと俺は床に倒れ込んでいた。
ランメルスを倒した後で魔力を使い果たして気絶していたみたいだ。
「テツヤ!無事なのか!?」
ソラノが心配そうに聞いてきた。
何故か二人とも鎧を脱いでシャツのボタンを大きく開けている。
「あ、ああ、悪い、なんか力が抜けたみたいだ」
「全く、無茶をして」
アマーリアが呆れたように言いながら俺を担ぎ上げた。
「決着は……付いたのだな」
床に転がる物言わぬランメルスを見てソラノが呟いた。
「ああ、もう終わったよ」
「そうか……こちらも王立騎士隊と合流して既に掃討戦を開始しているところだ。おそらく今日中にあらかた片が付くだろうな」
「助かったよ。王様を無事に逃がしてくれたんだな」
「礼を言うのはこちらだ。テツヤがいなければ今頃どうなっていたか」
ソラノがアマーリアの反対側で俺に肩を貸しながら言ってきた。
「ところで二人はなんでそんな恰好を?」
二人の大きくはだけた胸元を見たいという欲求に抗いながらなんてことないという風を装いつつ聞いてみる。
「こ、これは……」
ソラノが顔を紅くしながら反対側の腕で胸元を隠した。
「テツヤが気絶したからさっきみたいに私たちの力を分けようとしてたんだよ」
アマーリアが答えた。
「そ、そういえばそんなこともあったっけ。あ、ありがとな」
地下牢から二人を助け出した後に意識を回復した時のことを思い出すと顔が赤くなってくる。
激しい戦いをしたせいなのかもう何日も前のようだ。
「い、言っておくがあれは人命救助であってそれ以外でもそれ以下でもないからな!」
ソラノが顔を真っ赤にしながら釈明してきた。
「あ、あれは人工呼吸だ!断じてキスなのではないからな!」
え、そんなことまでしてたの?
全く覚えてないんだが、それはそれで凄く惜しい気がするぞ。
「ふむ、言われてみればあの時テツヤは気を失っていたし、キスにカウントするわけにはいかないか。テツヤ、ちょっとこっちを向いてくれ」
アマーリアの言葉に何の気なしに振り返ると口が柔らかいものに塞がれた。
俺の口を塞いでいたのはアマーリアの唇だった。
唇を割るようにアマーリアの舌が口の中に侵入してくる。
「ア、アマーリア様、な、何をっ!??」
ソラノが仰天しているがアマーリアはそのまま唇を重ね続けてきた。
俺はというと何が起こったのか全く頭で理解できないまま気付けばアマーリアを抱き寄せて無心にその唇を貪っていた。
「これが私のファーストキスだ。テツヤ、よく覚えておいておくれよ」
たっぷり十秒は経ってからようやく唇と唇が離れ、頬を朱に染めながらアマーリアが微笑んだ。
「な、な、な……」
砂浜に打ち上げられた魚みたいにソラノが口をパクパクさせている。
「いや、ソラノの言う通り確かに片方が意識のない時にキスをしたところでそれはキスとは呼べないと思ってな。だから改めてしたまでだよ」
「そ、そういうことではなくて!キ、キスというのはお互いの合意があってこそ……」
「テツヤは私とキスをするのは嫌だったか?」
アマーリアが上目遣いに聞いてきた。
いや、アマーリアにそんな目で聞かれたら否定できる訳ないじゃないですか。
「い、いや、俺は……別に…」
「ならば良いということだな!ほら、次はソラノの番だぞ」
アマーリアがそう言って俺の顎を掴み、ソラノの方へ向けた。
え?そういうものなの?
「ソラノが言うにはあれはキスではないということだからな。改めてしておいた方が良いだろう?」
「だ、だから!キスとはそういうものではないんです!」
ソラノが絶叫した。
顔が熾した炭みたいに真っ赤になっている。
「ん?テツヤとキスをするのは嫌なのか?」
「そ、それは……」
「ならば良いではないか。それとも恥ずかしいのか?好いた相手とキスをすることなど別に恥ずかしいことではないだろう。もう一度私が手本を見せてやろうか?」
そう言うなりアマーリアが俺の顎を捻って自分の方へ向けた。
どうでもいいがさっきから頭をあっちこっちに捻られて脳震盪を起こしそうだ。
「だ、駄目えっ!」
ソラノが叫んで俺の頭を抱え、唇を重ねてきた。
ガキン、と歯と歯がぶつかり合う。
ソラノの熱い吐息を口の中に感じる。
頭がくらくらしてきた。
ソラノは真っ赤になって固く目を閉じている。
俺はゆっくりと、それでもしっかりとソラノを抱き寄せた。
ソラノの体から力が抜けていく。
どの位時間がたっただろうか、俺たちが唇を離した時にはソラノの目は潤み、目じりに涙が滲んでいた。
「あの…これは……」
「う、うるさい!聞くな!わ、私にもよくわからないんだ!」
泣きそうな声でソラノがそう叫ぶ。
「しょ、衝動だ!な、なんかお前とキスしたくなったんだ!それだけだ!言っておくが私だってこれが初めてなんだからな!」
顔を背けているが耳まで真っ赤になっている。
俺は改めてソラノに肩を預けた。
柔らかな髪からほんのりとソラノの香りがする。
「そう思ってくれるだけで嬉しいよ」
「……う、うるさい」
小声でソラノが呟く。
「さて、一段落したことだし上に戻るとするか」
晴れやかな顔でアマーリアが言った。
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