第46話:国王一家救助作戦!

「リンネ姫には私が話した方が良いだろう。テツヤはまだ姫と会った事がないからな」


 俺たちは隠し通路の塔の四階部分にいた。


 これからリンネ姫に救助のための打ち合わせをする必要がある。


「ああ、任せた」


 アマーリアは俺の言葉に頷き、懐からナイフを取り出すと軽く三回打ち鳴らした。


 それを短いスパンで三回繰り返す。


「これは私とリンネ姫との間で決めた合図なんだ。退屈な会議の時はこうやって合図をしては抜け出してたんだ」


 そうなのか、しかし王様とも懇意にしてると思っていたけど姫様ともそうだったとは、アマーリアの顔の広さは想像以上だな。


「リンネ姫、アマーリアです。助けにきたのでそのまま動かないでいてください」


 リンネ姫は動かない。


 しかし靴先で軽く床を叩く音が聞こえた。


 三回を短いスパンで三回。


「椅子に座っているように言ってくれないか?」


 アマーリアが俺の言葉をリンネ姫に伝え、姫はその言葉に従って部屋にある椅子に座りこんだ。


 よし、これで準備は整った。





「これからどうするのだ?」


「まずは国王一家を助け出す。それからゴルドに向かっている王立騎士隊と合流する」


 俺はソラノの問いに説明した。


「この塔の一階を制圧して封印し、そこに俺の力で国王一家を移動させる。それから地下道を通って城外町に抜け出す。おそらく城外町へはまだ反乱兵の手も伸びていないはずだ」


「なるほど、それから遠征していた王立騎士隊と合流するわけか」


 アマーリアが相づちを打った。


「それからはおそらく一旦別の場所に避難し、改めて制圧軍を編成することになると思う。まずは国王が無事であることを国に知らしめないと」


「よし、そうと決まったら行動開始だ!」


 ソラノが勢いよく立ち上がった。





     ◆





 塔の一階には十名ほどの反乱兵がいたが俺たちの手にかかれば造作もなかった。


 隠し通路から出るなりソラノが暴風を生み出し、五名ほどの兵士を扉の外へ吹き飛ばした。


 残りは俺が床を移動させて強制的に退場させ、ついでに扉も封印して完全に開かなくさせた。


 これで数分は時間が稼げる。


「これで片付いたか」


 ソラノが辺りを見渡す。


「いや、まだ一人いるみたいだぞ」


 俺はそう言って隅にあった机を蹴り飛ばした。


「ひいいいっ」


 机の影から一人の兵士が飛び出してきた。


「た、助けてくれ!降参、降参する!」



「貴様は…?」


 ソラノがその兵士を見て眉をひそめた。


 俺もその顔には見覚えがあった。


 かつて路上でソラノを侮辱していた兵士だ。


「ソ、ソラノじゃないか!頼む!見逃してくれ!一時の気の迷いだったんだ!降参します!」


 その兵士はソラノと見るや足下にすがりよって命乞いを始めた。


「テツヤ、どうする?」


 ソラノが聞いてきた。


「そうだな…ここに居られても困るけど、かと言って今から扉を開けたら外にいる兵士がなだれ込んでくるだろうな。どうしたものかな……」


「ああ、こいつは反乱兵だしいずれ裁判を受けることになるだろう。ならばここで刑を執行しても問題はあるまい」

 

 俺の言葉にソラノが頷く。



「ひいいっ、命ばかりは!お願いしますソラノ、いやソラノ様!この前のことは謝りますから!どうかお助けください!」


 兵士はもはや泣きださんばかりだ。


「ふん、冗談だ。テツヤ、こいつを吹き飛ばすから壁に穴を開けてくれるか?」


「わかった。でも開けたらすぐに閉じなくちゃいけないからタイミングを間違えないでくれよ」


「分かっている」


 言うなりソラノが風を巻き起こし、その兵士を壁へと飛ばした。


 兵士は吹っ飛び……そのまま壁に激突して気絶した。


「あー、やってしまったー。ついタイミングを間違えてしまったー」


「全く、わざとらしい真似を」


 俺の言い訳にソラノが苦笑した。


「でも礼を言う。すっきりしたよ」


「良いって事さ。俺もこいつにはむかついてたんだ。それよりも早いところ国王一家を助けないと」




 改めて俺は塔の内部に意識を集中した。


 俺の脳裏に国王と王妃、姫のイメージが流れ込んでくる。


 三人が座っている椅子の足下に一階まで届く穴を開ける!




 まずリンネ姫が降ってきた。


 驚きのためなのか叫び声すらあげていない。


 俺の力で椅子を操り、ふわりと床に着陸させる。


 続けて国王と王妃も同じように助け出した。




「国王陛下、ご無事ですか!」


 アマーリアが即座に駆け寄った。


「おお、アマーリア!よく助けてくれた!」


 アマーリアを見て国王が安堵の表情を浮かべる。


「話はあとです!さっさとここから逃げ出しましょう!」




 三人を促そうとしたその時、俺の首筋が総毛だった。



 振り向く間も惜しんで床材に使っていた石で幾重にも壁を作る。


 同時に国王家族とアマーリア、ソラノを石の壁で覆った。


「「テツヤ!?」」


 アマーリアとソラノが驚きの声をあげる。



「悪い、こっから先は二人に任せる。国王一家を無事に逃がしてくれ」


 返事を待たずに俺は石の壁ごと五人を一気に城の外まで移動させた。



「「テツヤァァァァァッ!!!」」


 アマーリアとソラノの叫び声が次第に遠ざかっていく。



 その瞬間、俺が作り上げた石の壁が一気に破壊された。


 振り向くと立ち込める土埃の中に一人立つ影があった。


 確かめるまでもなかった。


 ランメルスが、そこに立っていた。

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