第1049話 殺陣と殺人


 ダンジョンが無くなり外に出られた俺らは手厚い歓迎を受けた。


「ダンジョン攻略おめでとう。このダンジョンをクリアしたのは貴様が初めてだ。そんな力を見込んで、招待してやろう。どうだ我が軍門に下らないか?」


 俺たちを囲っていた長のような人物が、そのようなことを言い出した。しかも土蜘蛛に対して。


 まあ、俺は関係ないだろうと傍観していたわけなんだが、


「ほう、牛鬼ぎゅうきを従えるとは、そこそこやるようだな」


 あれやこれやという間に何故か土蜘蛛が牛鬼と対峙していた。しかもその牛鬼、牛の頭をした鬼かと思ったら何故か牛の頭を持った蜘蛛だった。しかも前足二つには鋭い鎌付きで。


 土蜘蛛は蜘蛛かと思ったら蜘蛛じゃないし、牛鬼は鬼かと思ったら蜘蛛だし、妖の世界はどうなっているんだ? 本当に理解しがたいな全く。


「……」


 帰ってもいいかな、俺たち。次のダンジョンにも行きたいし、この領地の主さんは土蜘蛛に用があるんだろう? 俺たちここにいる意味ないじゃん。そんなことを俺が考えていると、


 キンキンッ、という剣戟の音が聞こえてきた。


 牛鬼は低い姿勢と細やかな動きで土蜘蛛に対抗しているようだった。土蜘蛛は土蜘蛛で長い手足を存分に生かして牛鬼を全く寄せ付けていない。


 よし、蜘蛛なのか蜘蛛じゃないかよく分からないコイツらは置いといて、俺たちは一足先にお暇しよう。妖同士の戦いを見ても正直何も得られないしな。


 俺はメガネくんにそっと目配せをして、音を立てないようにその場から離れようとした。だが、


「おい、どこに行くつもりだ」


 俺らは領地の主さんに止められるわけでもなく、そこら辺の取り巻き第一号と二号に止められてしまった。おいおい、俺らはいいだろーがよ。お目当ては土蜘蛛なんだろう?


「ちょっとトイレに……」


「あぁ、そうか。すぐ戻って来いよ、ってそうじゃねーだろ。なんだよVRの世界でトイレって、アホか!」


 お、ノリがいいな。でも、流石に騙されてはくれなかったみたいだ。それに加えて、コイツらの何かを刺激してしまったのか、


「お前らには人質になってもらう。グリューグル様の妖でも万が一があるからな。それに、この功績があれば……」


 俺たちは人質になってしまった。おいおい、どういうことだよこれは、なんで俺たちが人質にならないといけないんだよ。そもそも俺を人質にしたところで忠誠のちの字も生まれていない土蜘蛛には意味ねーぞ?


「……なあ、メガネくん。もうぶっ放してもいいよな?」


「正直に申し上げますと、私も同じ気持ちでございます」


 ってか、土蜘蛛も土蜘蛛だよな。さっさと終わらせてくれればいいのに、何をずっとキンキンしてるんだって話だ。時代劇の殺陣じゃないんだぞ?


 そうだ、超能力のテレパシーで伝えれば土蜘蛛は殺さずに済むか。いや、それならサイコキネシス使った方が早いか。というわけで、


「【殲爆魔法】、ファイヤーワーク」

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