第993話 手出し無用


「あ、」


 そうだ。この場で堕天使ズを強化してしまえば俺が手を出したことにはならないんじゃないか? いや、正確には上級天使に手を出すのではなく、堕天使に手を出すことによって事態を解決へと導こうというのだ。


 うん、俺天才じゃん。というわけで、


『お前ら、もう少しだけ我慢しろー! 【強制進化】!』


 供物として使うのは俺のスキルである触手、今までは素材を使ってその性質を引き継がせていたのだが、この土壇場で初めてスキルを使ってみる。だが、俺はなんとなくこれは間違いなく行けるという確信があった。


「な、なんだこれはっ!」


 堕天使が白い光に包まれた。かなり眩い光で、普通であれば目を開けておくことすら不可能なくらいだ。ま、俺は見えるけど上級天使さんは心が曇っているのか目を閉じてしまったようだ。


 そしてその光の中から現れたのは……何も変わらない堕天使だった。


「え?」


「チッ、ただの目眩しか。とうとうそんなコケおどしか使えないようですね! では貴方には死ん


 ズブッ


 上級天使の胸に一本の細いレイピアのような物が刺さっていた。それは堕天使から伸びた触手であった。


「な、こ、これはどういうこと、だ……?」


 ズバババババババン


 更にその状態から上級天使がまるでウニにでもなったかのように、そのレイピアのような無数の触手で串刺しにされた。


 その余りの出の速さに上級天使もバリアの生成が間に合っていないようだった。あまりに速く鋭い攻撃、避けることも防ぐことも難しいようだ。


 ん、ちょっと待て。そんな攻撃方法あったか? 俺が使っていた触手というスキルにはそんな特性なかった気がするんだが。


 触手というスキルは確か悪魔からもらったスキルで、触手に自分好みに特性を付け加えられる、というものだ。だから触手がレイピアのように固くなるのはまだ分かる。だが、その速さはなんだ? 俺より触手の扱いに長けているとは言え、そんな不可視の刺突ができるほどなのか?


 それともこの短期間で新たな特性を付与したっていうのか?


「小癪なぁああ!! クソ雑魚堕天使風情がこの私に刃を向けるとは!」


 ッダン!


 上級天使は怒りに任せその身から衝撃波を放った。それにより全ての触手が吹き飛ばされてしまった。


「クックック、私が本気を出せば貴方のような矮小なる存在は、、、何っ!?」


 なんと、上級天使の四肢は見えない触手によって拘束されていた。これは恐らく特性で透明化を使用して、更に触手を物凄く細くしたんだろうな。これは避けようがない。


「くそっ、この私がこんな穢れた奴らに! こうなったら!」


 フッ、と力が抜けたように上級天使が項垂れた。そして、


「この場では負けましたが、私たち天使を舐めてもらっては困ります。私の後ろにはより強い天使様が幾人とも控えているのですよ、精々恐怖に怯えて眠ることですね!」


 いつの間にか背後に出現し、少し薄くなった幽霊のような姿でそう捨て台詞を残して逃げようとした。


「逃すかよ、【蒼火】」


 上級天使は地獄の炎に焼かれて灰になってしまった。


「あ、」


 間違えて手を出してしまった。

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