第992話 上級天使の魔の手


『まさか同胞、いや元同胞をこの手で始末できる日が来ようとは……長く生きていると何が起きるか分かりませんねぇ。クックック』


 おい、コイツ今まで俺が戦ってきた悪魔よりもよっぽど悪魔みたいな顔になってるぞ。


 俺たちが対峙している上級天使は何とも言えない強者オーラが漂っていた。これは、三位一体の堕天使ズでもちょっと厳しいかもしれない。ここは俺が


『ご主人様、私たちに行かせてください』




『え?』


 ここは俺が引き受ける、という前に堕天使側からそう言われてしまった。


 配下からそう言われた以上、上司として、魔王として、譲らなければいけないのだが、ちょっと俺にも見せ場が欲しいのですが……これだと配下におんぶに抱っこの魔王になってしまう。


 でもここでイヤイヤ俺が行く、というのはもっとダサいしカッコ悪い。いや、こんな思考回路をしている時点でもう今更か?


『分かった。ただ油断はするなよ、今までの敵とは訳が違う』




『分かっております』


 そう言って堕天使ズは一歩前へと歩み出た。なんだか先ほどよりも背中が大きく感じるのは気のせいだろうか。これが親離れなのか?


『ほう、この私を見ても怖じけずに立ち向かおうとするとは。どちらにせよ殺されるのならば最後まで抵抗をしようというのですね? いいでしょう、真正面から捻り潰してあげますよ』


 その言葉を引き金にまず堕天使が触手を伸ばした。八本のうち四本を使った四方からの攻撃だ。これに対して上級天使はジャンプで躱すかと思いきや、


『ほう、戦い方までケダモノのようですね。これはこれは見苦しい、近づいて欲しくもない』


 そういうとギャインッ、と全ての触手が一斉に弾かれてしまった。どうやら全方位にバリアを展開したようだ。これはやはりなかなかの強敵のようだな。さて、お前らどうする?


 堕天使は一瞬の逡巡の後、墨を吐いた。それはこの場を埋め尽くすほど大量の墨で恐らく毒も付与されている強力なものだ。だが、当然バリアに阻まれさらには、


『甘い、甘いです。どうやら地に堕ちて頭までやられてしまったようですね!』


 誰がどう聞いても悪役にしか聞こえないセリフが聞こえると、まるでカーテンを開けるかのように墨が払われた。そして堕天使の脚が、


 グチャッ


 っと、まるで巨大な手によって握り潰されるように千切れてしまった。


 これは少しやばいかもしれない。この上級天使まさかその場から一歩も動かずに堕天使ズをやろうというのか?



『ふふっ、どうです私の不可視の巨手は。もう貴方は既に檻の中なのですよ。クックック。そのまま絶望の果てに地に堕ちたことを死ぬまで後悔するのですよ』


 どうやらコイツは敵を甚振る性質があるようだ。こうなってくるとただの悪魔だな。こんなに悪魔を倒してきた俺が言うのだから間違いない。そして、このままではまず間違いなく堕天使ズがやられてしまう。何か打開策を講じなければ確実に負けてしまう。


 ブチャァッ


 だが時間は刻一刻と迫ってきている。全く近づくことができない相手にこうも一方的にやられるとはな。だが、ここで俺が参加して上級天使をボコボコにするのも恐らく違うはずだ。何か、何か良い手はないか?


「あ」

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