第991話 蛸天女


 スダダダダン! っと合体堕天使は群がる敵をその触手で蹂躙していた。八本の脚を展開して立つその姿はもはやアラクネのようでもあり人魚のようでもあった。しかし、その太い触手と吸盤がどうしようもなく蛸感を醸し出していた。


 それにしても綺麗な女性と蛸及び触手は対極に位置しているといってもいいほど遠い存在だ。その二つが混じり合っていること自体なんだか奇妙だ。


 それでも戦闘力は中々のもので、吸盤と墨を使い分けて全く敵を寄せ付けない戦いをしていた。まるでそこにバリアでもあるかのようなそんな戦いぶりだ。


 堕天使たちも見ない間に随分と強くなったものだ。


 最初は魔王軍の末席にも加えられないくらいだったのに、今では——三人が合体すればの話だが——他の従魔と全然引けを取らないくらいにまでは成長している。


 これからは安心して戦いを任せることができるだろう。


『『『ご主人様、掃討が完了しました』』』


『お、おう』


 ただその見た目だけはどうにかして欲しいな。ちょっと見慣れなさすぎるっていうか、良い記憶が無いからなー。ま、そのうち慣れるか。


 そう言えばこいつら触手を沢山展開していたが、俺も触手のスキル持ってたよな? あれは色んな属性を触手に付与できるから、俺が持っているよりもコイツらが持ってた方が上手く使ってくれるかもしれない。


 それに、頭脳も三人いるからそれぞれに分割思考を覚えさせられれば、俺じゃ不可能な物凄い量の触手を同時に扱えるようになるかもしれない。これは楽上庭園を後にしたら俺のスキルを使って強制進化できるか確認してみよう。


 でもまずはここを抜けるところからだな。


『この先に楽上庭園に続く道があるのか?』


『はい、ですがそこには確か門番がいた筈です。私たちはどう見ても侵入者ですから間違いなく排除しに来られるでしょう』




『そりゃそうだろう。だが、昔のままならまだしも、今のお前たちなら余裕だろう』


 そうして歩みを進めると次第に大きな門が見えてきた。そして、その前に立つ巨大な門番も。


『おいおい、あれも天使なのか?』




『はい、あれは自我を抜き取られ門番としての役目だけを与えられた兵士、ガーディアンです。天使の序列とはまた別種の存在で、異物のみに反応し攻撃してきます。ですから……あれ?』




 堕天使ズがいくら近づいてもそのガーディアンとやらは反応しなかった。もちろん俺は姿を隠したままだ。


『これはもしかしてお前らが元天使であることが関係しているかもしれないな。一応始末しておけ』



 どうせ経験値も美味しいだろうからな。


 よし、これで楽上庭園に行けるはずだ。俺たちは門を開き、中へ進んだ。すると、


 ガッシャン!


 今しがた開けたばかりの門が、俺らが入ると同時に閉まってしまった。これは何かがおかしい。


「おやおや、ガーディアンが機能していないと思いましたらまさか地に堕ちた同胞さんでしたか。みるも無惨な姿になってしまわれて……そんな貴方達がここに何の用ですか?」


 声のする方向を向くと、そこには空中都市にいたどの天使とも違う、明らかな上級天使がこちらを見定めるような目で佇んでいた。

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