第912話 ネーミングセンス


「んーどうしたもんかな〜」


 俺はかれこれ結構な時間、ドラゴンの名前を考えていた。今までは特徴や特性を元につけることが多かったんだが、この場合に限って言うと、ファイヤードラゴンなんてことになってしまう。


 流石の俺でもそれは不味いと分かってしまう。俺だって成人男性だし、何より魔王なのだ。プレイヤーが見ている前でファイヤードラゴンなんて口が裂けても言えない。


 なら、どうしようかと、見た目の大きな特徴である青い炎から、アオなんて良いかもとも思ったのだが、それだと、これからスキルが進化していく中で炎が青色じゃなくなってしまう。そうなった時に、真っ黒なのにアオって呼ばれるのは本人的にどうなのかな、という問題が出てくる。


 じゃあ、他の特徴はというと……護衛、とかか? でもそうなってくるとどんな名前をつければ良いのか分からなくなってくる。


 というのをずっと無限ループさせているのだ。そしてついに、俺はこのままでは永遠と名前をつけられないだろう、ということに気付きある専門家の方に連絡をした。


『メガネくーん』


『は、はいなんでしょう?』


『ちょっと、名前を考えて欲しいんだけど』


『な、名前ですか? どちら様の……』


『俺の直属護衛のドラゴンなんだけど、良い名前が浮かばなくってさー。なんか良いの無いかなーって思ってだな。それに、俺一人で考えているとどうしても煮詰まってしまうから、ここいらで意見を聞こうと思ったのだ』


『なるほど、そういうことでございましたか。しかし、陛下には既にたくさんの従魔をお従えになられていましたよね? あまり系統が違いすぎてもいやですので教えていただけないでしょうか?』


 うん、確かにそれもそうだな。なんか、自分のネーミングセンスを公開するようで恥ずかしいが、メガネくんなら言いふらしたりすることはないだろう。それに、もし不利益な行動を取ったら制裁を加えればいいからな。


 んー、堕天使ズは従魔なんだけど、実力的にワンランク劣るから、除外して残りの正式メンバーだけ伝えようか。ん、堕天使の名前を聞かれたくないだけだろ、って? そ、そんな訳ないだろう?


 それにあれは適当にノリで付けた名前なんだよ、だから俺のセンスとは一切関係ないからな?


『順番に、ハーゲン、スカルボーン、アシュラ、アスカトル、ペレ、アイス、デトックス、ゾム、海馬だな』


 なんだかこうして改めて見るとなんだか変な感じだな。初っ端のハーゲンもそうだし、最後の海馬なんて漢字だし、まあそれも踏まえてメガネくんなら良い具合にしてくれるだろう。


『ふむ、特に法則とかはない感じなんですね。ただ、どちらかというとカタカナが多いので、今回もカタカナの方がいいと思います。そうしたら海馬様の特異性も際立ちますからね。んー、そうですね、一、二、三……今回で十体目の従魔ですのでドイツ語で十を意味する、ゼイン、なんてのはいかがでしょう?』


『ぜ、ゼイン……?』


『えっ、だ、ダメでしょうか? もちろんお気に召さなければ使う必要もないですし、陛下がご自分で考えた名前であればどんなものでも喜んでくださると思いますよ?』


 な、なんて奴だ。俺があれだけ真剣に悩んでいたというのに、ものの数秒で最適解を出してきやがった。名前としてもかっこいいし、意味もちゃんとある。完璧じゃねーかよ。


 これがネーミングセンス……よし、ゼインにしよ。


「好感度が最大値のモンスターに名付けを行いました。個体名:ゼインが従魔に登録されます」

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