第895話 男謀と女颯


「うぃ、ウィズさん!! 半部隊壊滅しました! これはもう、もう、どうしようもありません……どうしましょう!?」


 どうしようもないのにどうするか聞いてくるとは。まあ、それだけ窮地に立っているということなのだろう。


 出撃した私も、やられているのがこちらのプレイヤーばかりで魂を全く扱えないのはかなり誤算でした。


 そのせいもあって中々魔物を倒せずにこちらはどんどん数を減らすばかりです。


 もういっそのこと、この国に住むNPCを虐殺して魂を確保しようかとも思いましたが、流石に踏みとどまりました。私もまだNPCを敵に回す覚悟はありません。


 ただ、これ以上打つ手がないのもまた事実。万事休す、撤退も考えたその時でした。


「な、なんなのこれは!?」


 戦場には似つかわしくない女性の声が聞こえてきました。その声の主の方へ向き直ると、そこには本当に女性がいました。しかも三人。


 驚きの余り声を失いかけたわたしですが、その女性に見覚えのある私はすぐさま頭を働かせ声をかけました。


「すみません、旅の方ですか? ただ今この国に魔物が押し寄せて来ております。どうかご助力願えないでしょうか?」


 私は心の底から困っていそうな声で、助けを求めました。しかも、NPCになりきって。それに対する女性達の反応は、


「……貴方、プレイヤーよね? その見た目でNPCは無理あるし、逼迫感が足りないし、NPCの使う敬語じゃないわ」


 くっ、やはりそう上手くはいきませんね。この方はかなり聡明なようだ。だが、別にバレた所で構わない。そういうロールプレイをしていると思われれば充分なのだ。


 私に協力してさえくれれば。


「まあいいわ。それで魔物の特徴は? どんな魔物が襲ってきているの?」


 私が何も言わずただ目線だけで助けを求めていると、とうとう相手方が根負けし私の協力を引き受けてくれた。


 これで私の首の皮一枚が繋がりましたね。まあ、最悪千切れたとしても、最強プレイヤーいや今は二番目ですか。ともかくトップランカーを道連れにできるのは私としてはお釣りが来るほどです。


「ご協力ありがとうございます。今、この国に攻め込んできている魔物はその多くが巨大な蜘蛛型モンスターです。その他にもチラホラ見受けられますが蜘蛛だけに絞って頂いて構いません。できる限りの駆除を願います」


「あくまで貫き通す訳ね、分かったわ。報酬は後できっちり頂くからね?」


「えぇ、勿論。では、お願いしますね」


 報酬なんてコチラのクエストが達成した後でどうとでもなりますからね。今はなによりも目先のことが優先です。


 最悪の場合はトンズラすれば良いだけ、彼女らにはしっかりと働いてもらいましょう。


 ❇︎


 私たちがに着いた時、もう既に阿鼻叫喚の地獄絵図だったわ。


 魔物が跋扈しプレイヤーの抵抗も虚しく撃沈している状況だったの。そこで私は声を掛けられたわ。


 魔物を討伐して欲しい、と。そんな訳で今私たちは国に蔓延る蜘蛛と戦っている訳なんだけど、


「【黒炎魔法】、ヘルフレイム! ちょっとこの蜘蛛達強くない!? 弱点の炎が全然効いてないんだけど!」


「お姉さま! 私の海神魔術も全く効きません、ですわ!」


 これは確かに厄介な相手ね。これだけプレイヤーがいても手こずるのは頷けるわね。


「一旦引くわよ!」


 そう言って私たちは一時戦線離脱をした。


「お姉さま、これはあの怪しい男に騙されているんじゃありませんの? 私の海神魔術が効かないのはともかく、お姉さまの黒炎魔法が効かないのはおかしいですわ! それこそ負けイベントを押し付けられているんじゃありませんの??」


 確かにイチゴの言うことも理にかなっているわ。炎が効かない蜘蛛なんて魔法攻撃に強いゴーレムのようなものよ。


 私としては私の黒炎魔法よりもイチゴの海神魔術の方が強いと思っているのだけれども、そんなの関係無しに二人の魔法が効かないのはおかしいわね。


 いくら魔法耐性が強かったとしても異次元すぎるわ。


 ハクちゃんがいるからなんとかなってはいるものの、ハクちゃんがいなかったらもう三回は死んでるわよ。


「そうねぇ。それでもここには何かある気がするのよね、私の勘がそう言ってる。それに……」


「それに?」


 ハクちゃんがそう尋ねてきたわ。彼女も相当気になってるみたいね。


「私に声を掛けてきた男いるじゃない? あの男バレていないと思ってるみたいだけど、結構強いプレイヤーよ、それこそ頂上決定戦にもでてたし、以前のクラン抗争でも確か二位のクランだったはず」


「え!? そ、そんなに強いプレイヤーだったんですの?」


「えぇ、そうよ。そんなプレイヤーがNPCのフリまでして私たちに魔物の相手をさせようとしたってことは、絶対に何かあるわ、二人とも後もう少しだけ手伝ってくれる?」


「「もちろん」ですわっ!!」


 ここに必ずある。私が更に強くなる為の手掛かりが。

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