第828話 バンジージャンプ(紐なし)


「な、名前……? あっ、はい! 私の名前はグリコと申します、何卒よろしくお願いします!」


「グリコ、か。うん、よろしくお願いします」


 俺は頭の中に白のタンクトップで特徴的なポーズを取っている男性を思い浮かべながら挨拶をした。


「それで、グリコ君はこのクランにもっと強化が必要、って考えているってことでいいのかな?」


 難しい、どんな口調にするのか非常に迷う。歯垢帝や魔王みたいな尊大な口調をとれれば楽だが、今更そんな態度とってもな、って感じだ。


 だからと言って謙るのも上に立つ者として違う気がする。


「は、はい! そうであります!」


「うーん、そうかー。じゃあこうしようか。もっと強くなりたい人だけ残ってもらって、その人たちだけに訓練をしよう。強くなりたいと言う意思がない人にとって、訓練はタダの地獄だからね」


 俺がなぜ、このグリコくんの提案を断っていたのか、その理由が正にこれだ。


 同じメンバーと言っても皆が上昇志向があるわけじゃないだろうし、俺の訓練に耐えきれない。という人もいるだろう。


 前回の訓練では幸いなことに反乱者は出なかったが、だからと言って今回も出ないとは限らない。


 だからやりたい人だけ残って貰えばその心配もなくなると思っての判断だ。因みに名前を聞いたのは単なる時間稼ぎだ。


「了解しました! では、訓練をする方は着席を、訓練をしない方はそのままログアウトなさるか、この場を退室して頂く、というのはどうでしょう?」


 グリコが皆の方を向いてそう言った。すると、何人かかは出て行くと思っていたのだが、なんと全員が着席してしまった。


「え?」


 俺は意外感に包まれると同時に、なんだが学校みたいだな、そう思わずにはいられなかった。


「じゃあ、みんなで温泉にでもいこっか!」


「「「「「は?」」」」」


「ま、温泉とは言っても少し熱いかもだけど」


 そう言って俺は皆で火山へと赴いた。魔王城のペレがいる所でも良かったんだが、俺が魔王である、もしくはなんらかの繋がりがある、という疑いは少しでもなくしたい。


 ちょっと遠かったけど、その道中で皆レベル上げに勤しんでくれたようで決して無駄にはなっていないだろう。


 そんなこんなで火山の火口まで来たんだが、さて、温泉に浸かるとしよう。


「よし、じゃあみんなここから飛び込んでください。私も皆さんが飛び込んだ後に続きますので。じゃあグリコ君、お願いします」


「は、はい!? わ、私がここから飛び込


 俺は面倒くさくなってグリコ君の背中を押してしまった。もちろん物理的に。


「他に、私に押して欲しい方はいらっしゃいますか?」


 俺がそう聞くと皆、何も言わずに飛び込んでしまった。あれ、俺に押されるのそんなに嫌か?


 皆が飛び込んだのを確認した後に俺もマグマの中へと垂直落下をした。


 下では皆もう着水しており、息絶え絶え、というような状況だった。これが正に地獄絵図、なんてつまらないことはさておき、俺は急いでみんなを回復して回った。ここで死んでもらってもいいけど、またここに来るのは大変だろうからな。


 俺は何が何だかというメンバーを尻目に口を開いた。


「さて、湯加減はどうでしょうか。では、ここで皆さんには水球をしてもらいます!」

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