第812話 無血戦争


 俺は弱いものグループを引き連れて砦を出た。今回の作戦は無血戦争、一滴も血を流さずに完全勝利する、それが目標だ。その為の弱いものグループである。弱グルのギロチンで即死させれば血は流れないからな。


 え、殺してるじゃないかって? いや、無血ってのは動物たちのだぞ? 人間を殺さないとは言ってない。それに血は流れてないんだからガチャガチャ言うのはやめて欲しい。


 さて、砦防衛に一抹の不安は残るものの、それもこちらがさっさと仕事を終わらせれば済む話だ。早く仕事に取り掛かろう。


 攻め入る先は決めていないがどちらでも構わない。どちらもやってしまえば変わらないのだからな。


 そして、今回は無血戦争らしく、クリスタルを見つけた場合に限りクリスタルの破壊をしようと思う。そちらの方がよりスマートに終わるだろうからな。ただ、見つけられなかった場合は、、、皆殺しだな。


 俺たち一行は草原を歩いていた。そういえばフィールドは前回も草原だったが、それで固定なのだろうか? 


 っと、どうでもいいことは置いといてようやく見えてきたようだな。さて、あの砦はどちらの砦かな?


 俺たちが更に砦に近づくと敵が中から飛び出してきた。その敵五名、トラ、オオカミ、ライオン、サル、ワシだ。


 なるほど、動物たちに防衛を任せるとはなかなかやるじゃないか。俺たちが動物を殺さないと言うことを知っていたのかって思うほどの対応だ。しかし、殺さないと言うのは何も無抵抗にやられるってわけじゃない。


「【触手】、粘着」


 俺は体から十本の触手を展開し、瞬時に敵勢力を捉えた。今回は無血戦争だから、血を流すのも流そうとするのも控えてもらうつもりだ。


 にしても従魔に戦わせて自分らは出てこないってどう言う神経しているんだ? もう最悪殺してもいいかな? どうせゲームの中だから本当の意味では血は出ないんだし。……それを言ったらお終いか。


 周囲を警戒しながら砦内に入る。目の前には大きなクリスタルがある。誰も出迎えてくれないならさっさと壊すか、そう判断しようとした時、ッドーンと敵が俺たちとクリスタルの前に現れた。


 その姿はとても奇妙なものだった。四つん這いで立っている胴体からは五つの首が出現し、それぞれ、虎、狼、獅子、猿、鷲の頭が出ていた。控えめに言ってただの化け物だった。


 体からは更に一対の器用そうな腕が生えており、もちろん、大きな翼だって生えている。尻尾は長く奇妙な形をしており、細くなったり太くなったりふさふさ度合いも場所によって変化している。これほどの化け物を一体どのように生み出したんだ?


「ん?」


 虎、狼、獅子、猿、鷲ってさっき俺が捕まえた……


「リーダー! 確認してきましたがリーダーが捕まえた動物たちが忽然と姿を消していました!」


 優秀なメンバーがそう俺に告げた。だが、少し間違っているみたいだ。姿を消したのではなく、姿を変えて俺の前に現れているのだ。


 このクランはとことん自分の従魔に戦わせるつもりなんだな。動物たちを融合させるなんてとても凄い技で俺もやってみたいと思わなくもない。


 だが、ご主人様がコソコソ隠れて遠隔で支持しているような敵には負ける道理がない。だって、従魔はその姿を学ぶのだからな。


「全員待機、人間を見つけたらすぐさま処せ。コイツの相手は俺がする」


 俺はメンバーに指示を出して戦闘態勢に入る。コイツは流石にメンバーを庇いながら無血を目指して戦えるほどの敵じゃないみたいだからな。気合を入れて戦おうと思う。


「「「「「グギギャアアガァゴガァ」」」」」


 ……ちょっと一度に喋るのやめてもらっていいか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る