第810話 笑気と勝機


「ど、ど、ど、どうしましょう……」


 我に帰った山田さんが急に焦り始めた。確かに、こんなに大量のチンチラ? をどうするのか、と言われれば答え難いものがある。


 よく見れば、チンチラだけではなく、ちゃんとりすやハムスター、ネズミなど似たような生物もいた。動物にそこまで興味のない俺だって可愛いと思うほどだ。山田さんが我を忘れて頬擦りしたくなる気持ちもわかる。


 そんな可愛らしい動物たちを全員殺処分するというのは流石に気が引ける。かと言って何も害がないからと放置しておくのも危険だ。なぜなら、確実にこの愛らしい動物たちは敵陣営なのだからな。


 従魔を通して攻撃を仕掛けてきたり、それが無くても情報収集をしたりなどできることはまだまたくさんあるだろう。


 今後の憂いを断つというのならば殺処分一択しかないのだが……


「チュウ?」


 一匹のリスと目が合ってしまった。首を傾げてどうしたの? とでも言いたげなその表情に心がどうしても揺らいでしまう。そう、この動物たちには罪はないのだ。


 そうだ、別に殺処分をする必要はない。無力化するだけでも全然効果はある。眠らせたり麻痺させたり、穴を掘ったりしてもっと隔離を強化したりするのもありだろう。


「や、山田さん。流石に殺処分をするというのは目覚めが悪いので、どうにか無力化したいと思います。薬師の方を呼んでもらえませんかね? 彼ならもしかしたら良い手を持っているかもしれません」


「り、リーダー! わかりました!」


 そう言って山田さんは駆け出して行った。幸い、薬師の人は攻撃職ではないからか、比較的すぐに見つかった。そして、無力化できる手立てがないか聞いてみたところ、


「そうですね、今自分がすぐに用意できるものとしましては、笑気ガスしかありませんね。手持ちの素材がもっと豊富にあれば睡眠薬でも麻痺薬でもなんでも作れるのですが……」


 笑気ガスか。つまりは笑気麻酔の類ということだろう。完全に眠らせるわけではないものの、ポワポワとした酔っているような感覚に陥れて感覚を麻痺させるというもののはずだ。


 うん、悪くない、むしろ逆によくその素材が合ったな、という感じだ。


「それで十分だ。今すぐその作成に取り掛かってくれ。そして山田さん、他にての空いている人たちを呼んでください。チンチラたちの居場所をもっと広くそしてもっと低くしたいと思います、万が一の脱出も防ぐようなつもりでお願いします」


「「はい! わかりました!!」」


 そこからは早かった。メンバーが穴を掘り、薬師の方が迅速に笑気ガスを作ってくれた。メンバーが皆、流石に殺すのは可哀想、と思ってくれたのが何よりの救いだった。一人でも殺処分した方が良いという考えの人がいたらどうしようと思っていたところだったからな。


「ふぅ」


 今、作業が終了した。可愛らしい侵入者たちは今、地下深くで気持ちよさそうに踊っていたり眠ったりしている。


 そして、彼らのおかげでこちらは逆に目が覚めた。彼らを本当に侵入者にしないためにも我々はさっさと方をつけなければならない。また、笑気ガスの効果時間もある。それまでには確実に終わらせなければならないのだ。


 もう、やるべきことは見えた。ならば後は実行するのみ。


「皆さん、いきましょう」


 俺は全メンバーを連れて砦を後にした。目標は敵の殲滅だ。

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