第809話 化身登場
自分が放とうとしていた火球でダメージを食らってしまった始祖鳥、もとい敵さんはすぐさま逃げ帰ってしまった。追って追撃してもよかったのだが、ハーゲンを出すのは魔王バレの観点から危険だし、天駆を見せるのもちょっと違うな、って思ってしまったのだ。
何故なら、この抗争はクランメンバーや敵だけでなく、他の全てのプレイヤーに中継されている。まだ予選段階であるからさして注目されていないとは思うが、手札を隠せるなら隠しておきたい。ここぞという時に使いたいからな。
しかし、逃したことによる損失は思いのほか大きかった。敵の陣営が特定できないのだ。無理にでも殺しておけば喧嘩を売ってきたところに報復できたのだが……
まあ、悔やんでも仕方がない。早急に守りを立て直すとしよう。
そして、守りだけでなく攻めの一手も考えないといけないな。だが、この抗争は明らかに防衛側が有利だ。守りはいくらでも固められるし、攻めてはその全貌が分からないからな。
つまり、ここでずっと待っておくのも手としてはありなのだが、それだと今度はさっきみたいなちょっかいに一々対応しなければならない。
「リーダーどうしましょう。なかなかに難しい局面ですね」
そう話しかけてきたのは、山田太郎さんだ。俺の印象としてこの人はとても真面目でできる人間であるとそう勝手に思っている。
そうだ、別にリーダーだからといって全てを自分で考える必要はない。最終的な判断を下して皆を動かせばいいのだ。だから、もっと人の手を頼っていこう。別に俺は参謀経験があるわけでもないし、頭がいいとはお世辞にも言えないからな。
「助言をいただけないだろうか。このイベントは正直守り側が強いと思っているのだが、かといって先ほどのようにちょっかいばかりかけさせられてもストレスが溜まるだろう。どうしたらいいだろうか?」
「そうですねー、私としましては……」
山田さんが何か言葉を発そうとしたその瞬間、その言葉はより大きな音にかき消されてしまった。
「て、敵襲! 何かが、何かがこちらに入ってきます!」
その音はとても不可解なものだった。いや、別に声色が変とかそういうわけではなく、内容の問題だ。まず、「何かが」という報告、これは敵襲が来る報告をするのならば絶対に伝えなければならない情報だろう。それなのにそこをボヤかしているとはいったい何事だ?
そして二つ目に入っている、という情報だ。普通入ってくる前に報告しないといけないだろう。何、侵入を許しているのだ、と。
私は迷いからくるイライラによってか敵襲の報告にすらイラついてしまっていた。危ない危ない、リーダーとしてはあるまじき精神状態だな。まずは目の前の敵から屠っていきましょうか、そう思い、俺がドアを開けると……
「「「チュウチュウチュウ」」」
「ぬわっ!」
大量のネズミ、いや、リス、ん、ハムスター? が入ってきた。こ、これが、こいつらが正体不明の侵入者で、気づいた時には侵入されてたってことか!
この小動物たちは一直線にクリスタルの方へと向かっている。まずい、止めなければ、でもどうしよう、爆虐魔法だとクリスタルも壊しかねない、どうすれば……
俺が迷っている間にも刻一刻と彼らがクリスタルに近づいている、くそ、ここまでか?
「【土魔法】、ねずみ返し!」
その声の主はまさかの山田さんだった。
その魔法は彼ら小さき侵入者とクリスタルの間に壁を作るだけでなく、さらに返まで着いた最強の防護壁を生み出したのだった。
さらに、側面からの攻撃も防ぐかのように、彼らを壁で取り囲み完全に囲ってしまった。
あまりの手際の良さに俺は言葉が出なかった。しかし、我に帰った俺は慌てて感謝の言葉を述べようとした。
「あ、ありがとうござ
「ちょ、ちょっと待ってください! もしかしてこれチンチラじゃないですか!? か、か、か、可愛いいいいいい!」
そう言って山田さんは自らが捕獲した侵入者をまるで天使でも扱うかの如く優しく包み込み、頬のところまで持ってきて、スリスリした。
……あれ、スパイの方ですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます