第637話 二人の結末


「【分け身】」


 俺は分体を二体生み出しした。だが、その間にもハーゲンは俺へと果敢に攻めてきていた。


 しかも、既にハーゲンの体には雷が纏われており、スピード、威力共に大幅に強化されている。これは俺も見たことがある奴だな。


 だが、三対一だ。いくら素早く動こうとも俺が対応できない道理はない。と、思ったのだが、


「あれ?」


 ハーゲン、増えてね? 俺の見間違いじゃなきゃどう見ても二、三体はいるように見えるんだが?


 えーっと、これはもしかしてあれか? 速すぎて何体もいるように見えている的なやつか? そうなのか?


「……」


 え、良いなー。まだ俺もできないぞ、そんな格好良い技。俺も使ってみたい。どんな気分なんだろうな。


 って、そうじゃない。これじゃ数の有利が使えなくなってしまった。新たに分体を生み出そうにも、ハーゲンがそんな隙を与えてくれるわけもない。



 分割思考をフル回転させて速すぎてブレまくってるハーゲンに対応する。少しでも気を抜いたら一瞬でやられてしまいそうな緊張感だ。


 だが、ここで覚悟を決めてこのまま乗り切ってやろうじゃねーか。変にスキルに頼っても本気の戦いに水を差しそうだからだしな。せっかくの相棒なんだ。心いくまでぶつかってやろう。


 それに、俺の分け身と違ってハーゲンの分身はかなり体力を消耗しているはずだ。そう何時間もできる代物のはずがない。


 だからこそ、俺はこの攻撃を耐え、そして俺が勝つのだ。


「えっ!?」


 ここで、ハーゲンのスピードが更に増してきただと? さっきまでは二、三体だったのが一気に四、五体に増えたぞ?


 これで完全に数の利を相手に奪われてしまった。まるで、俺の思考回路を読み取ったハーゲンが、俺にそんなしょうもない戦いをするなと言わんばかりだな。


 ならば俺も本気を出すしかないな。ハーゲンが文字通り身を削ってここまでぶつかってきているのだ。俺も、それに応えよう。


「【悪魔との契約】」


 これを戦闘に使うのはなんだかんだこれが初めてだな。今までは変なことに使ってきたが、いよいよ本番だ。だが、もちろん主導権を悪魔に取られたりはしない。気合いで悪魔をねじ伏せ、あくまで悪魔の力を俺が使う、ただそれだけだ。


 そして、これで終わりではない。


「【龍宿】」


 見た目は人のままに、俺は龍の力を全身に宿した。あぁ、なんだろうこの久々の感覚は。全身滾るように熱い、そして闘争本能が掻き立てられる。


『ハーゲン、いくゼェえええ』


 全力で握りしめた拳を前に出そうとした時、ハーゲンは俺に向かって尻尾を叩きつけようとしていた。この技は俺も見覚えがある。ただ、ここで避けたりなんかはしない、正面衝突で力と力のぶつかり合いだ。


 俺の全身全霊の拳、とくと味わってくれ。


 ッドガーーンッ!!!


 俺は拳を振り抜いたまま、ハーゲンは壁に打ち付けられた状態で、俺らの初めての戦いは幕を閉じた。


 あ、そういえば服従させる時に、戦ってるか。いやでもあれは、一方的だったからノーカウントだな。

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