第627話 海馬の成長


「ただいまー!」


 俺の声は虚空に響き渡った。


 いや、まあこれは仕方がない。最上階には基本的に誰もいないからな。むしろ誰もいないことを想定してやったんだからな? 聞かれたら逆に恥ずかしいし。


 決して従魔たちから好かれてない、慕われていない、という事ではないので、注意するように。


 って、俺は誰に注意してるんだろうな。


 よし、切り替えよう。ここからは天使との戦に向けて大詰めだ。あと一週間くらいしか残されていないからな。


 皆を集めて特訓の成果をざっと確認して、戦略とかも立てていきたいと思う。


 よし、まずは海馬だなー。海馬は正直、陸に上がると本来の力を発揮できないから今回はお休みになる可能性が十分にある。しかし、戦場によっては海馬も遠距離からブレス攻撃などできることはあるかもしれないので、頑張って欲しい。


 ❇︎


「え、」


 海馬の層に実際に行ってみると、そこには予想だにしない光景が広がっていた。


 なんと、海馬を前に一階層の住民である、サメ達が整列していたのだった。それこそ軍隊かのように。


 これはどういうことかと海馬の方に視線をやると、なんか態度が大きくなっていた。しかも、見た目も若干違う気がする。


『海馬、お前何があったんだ?』


『はっ、城の防衛力及び軍の戦力を向上させるために、この層内の者たちを鍛えておりました。すると、いつの間にか私の配下となっており、気づけば私も九重魔龍から、九重魔鮫龍に進化していたのです』


 お、おぉ。それはどうなんだ? 配下ができたことによって、自分にも影響があったということか? それに気づいたら配下になってたって……


 いや、でもモンスターたちは俺らプレイヤーみたいに服従のスキルがあるわけじゃないかもしれないし、そもそも配下を増やすというのが、服従だけでできるとも限らないのか。


 モンスターの、モンスターらしい行動によって海馬は自分の配下を獲得したということか。


 そして、それなのにも関わらず、ちゃんと俺への敬意も忘れていない。素晴らしいことじゃないか。


『海馬、よくやった。このサメたちも間接的には魔王軍ということにはなるが、それでもお前の直属の部下達だ。お前が責任もって鍛え、指揮するのだ』


『はっ、心得ました、魔王様』


 これは思わぬ収穫だったな。海馬が指揮して、このサメたちが連携して相手を責めると考えると少しゾッとするほどだ。これ以上にない防衛戦力だろう。


 だが、一つ惜しむらくはやはり、どう足掻いても水中でしか活躍できない、ということだろう。


 今回の天魔大戦では留守番だな〜。


 でもまあ、大戦中に城を落とそうと考える不届き者はいるだろうから、そいつらに対してはちゃんと睨みを効かせることができるな。


 うん、海馬もいい具合に成長してくれているようで、ほんと何よりだな。


 よし、次はゾムか! ……ゾムかぁ。

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