第622話 見えない毒


「ん? じゃあ、俺って叩き潰されてないから、人間じゃないのか?」


 自分の経験則だけで人を人外扱いするだなんて、酷いな。俺だって、魔王の皮を被っているとは言え、人間だぞ?


 ……まあ、この世界では人間から遠ざかってるのは認めるが。


「なっ……!? 何故? 確かに今この手で」


 うん、コイツはすぐに決めつけてしまう癖があるんだろうな。それも自分の主観だけで。今まではそれでも良かったかもしれないが、今回は残念だったな。


 よし、俺も反撃しよう。そもそも、分体を生成して対抗するのが間違いっだったな。目には目を歯には歯をだな。相手の手数の多さには、こちらの人数ではなくて、こちらも単純に手数を増やせば良かったんだよ、似た感じで。


「【触手】」


 ブニュ


 うえ、なんか気持ち悪い音したな。背中から一気に出しすぎたのがいけなかったか? 数は大体二十本くらいだな。それぞれいろんな特性を持たせてある。


 毒を持たせたり、鋼みたいにガッチガチにしたり、包丁みたいに切れ味よくしたり、粘着力あったり、血を吸えたりとかだな。ま、ほとんどが切れ味の斬と硬さの綱をメインにしてある。


「な、それは……っ!?」


 ふふふ、向こうも驚いてくれたみたいだな。じゃあ、こちらの番といきますか!


 俺はその場から一切動かず、触手だけを相手に向かわせた。そう、さっきのお相手さんみたいにね。そうした方が、向こうもイラッとくるでしょ?


「小癪なぁああ! 人間が猿真似なんぞしよって! 私の方が優れているに決まっているだろう!」


 人間なのか猿なのか、どっちかはっきりして欲しい。ま、俺は魔王なんだけど。


 だが、お相手さんの圧倒的自信の通り、流石にこれだけでは押し切れることはできなかった。沢山の武器の同時操作に慣れている敵と、今始めたばかりの俺じゃ流石に操作練度に差が出るのは仕方のないことだからな。


 だが、流石にそこは俺も織り込み済みだ。これはあくまでも魅せプレイ、いや見せプレイだ。この攻撃を印象付けることで相手にはこれしか目がいってないことだろう。


 そして、俺が出した触手はまだ二本ほど残っている。一つが粘着、一つが吸血だな。そしてその二つは巨大化の逆、細小を施してある。それこそ肉眼じゃ捉え切れないほどのな。


 相手は自分が動かないからこそ、自分に忍び寄っている蜘蛛の糸如き俺の触手には気づかないし、ましてや最先端医療顔負けのほっそい触手で吸血してるもんだから、それにも気づかない。


 ただ、俺の触手を捌いているだけだ。だが、確実に毒は回ってくる。


 でも、全部の血を抜くまで待ってるのは面倒臭いな。細くしたせいで数量もちょびちょびになってしまっている。いくら吸引力あげても通れる量に限りがあるからなー。


 だから少しタイムリミットを早めてあげよう。


「【鋭俊剛血】」


 俺は相手から奪った血液を礫状に変形し、物凄いスピードで射出した。お相手さんの眉間に向かって。

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