第351話 速読の闇
ふぅ、またこの場所にやってきたな。と言っても二回目なんだが。今回で図鑑を読み終えてさっさとモンスター集めに乗り出したい。何故か仙人になるまでの道のりがどんどん遠く複雑になっていっている気がする。おかしい、おかしいぞ。
まあ、目の前のことを地道に一つずつやるしかないのだ。
「いらっしゃいませ」
昨日と同じ人が受付をしていた。ずっとあそこにいるのだろうか。軽く会釈をして入っていく。昨日は閉館ギリギリまでここにいた。そして今回は開館とほぼ同時にきた。何故かって?
昨日と全く同じ場所にあった本を手にとって一発で昨日の続きの箇所を開く。
そう、俺はこそっと目印になるものを挟んでおいたのさ。だから俺は一発で開けたということだ。そしてその栞の代わりに挟んでおいたものがなんと、お金なのだ。
俺にとってはお金はすぐになくなってしまうものだ。死ねば失われるし、銀行のような場所に預けておいても忘れるし、帰ってくること自体があまりない。そんな訳で今手元にあるお金は大変貴重なのだ。
だから万が一、誰かに見つかって取られるわけにはいかないだろう? だから俺は早起きしたし、こうやって時間通りにきた。人は失うものに関しては敏感になれるのだ。
このような裏の努力を基に、今日も読み進めていく。もうあと少しだ。それにかなり熟練度も高まってきた速読スキルもある。全力で駆け抜けよう。
朝日が差し込んでいたはずの図書館に、人がちらほら訪れ始め、すっかり太陽も真上に上がったところで、
「終わったー!」
遂に、俺は読み終わったのだ。長き格闘の末に、ようやく読み終えることができた。俺には今。この図鑑分だけの知識を手にしている。知識とは武器だ。
孫子も言ってたしな、「彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らずして己を知らざれば、戦う毎に必ずあやうし」って。これはたまたま今日の朝に見かけて覚えていただけなんだが、相手を知っていれば、無敵だということだ。つまり俺は無敵なのだ。
いや、待てよ。相手を知って、己を知ってたら無敵、自分だけだと五分、己すら知らなかったら負け確、それは分かった。なら、相手を知ってて、自分のこと知らなかったらどうなるんだ? 俺は自分のことしっかり知っているとは思っていない。だって今持っているスキルもまともに言えないだろうしな。
孫子さんは、おそらく自分のことを完全に理解してたんだろうな。自分を知ることなんて当たり前だと思っていたのだろう。まあ、事実、相手なんかよりも自分のことのほうがよっぽどすぐに、簡単に知れるからな。
「ふぅーー、はぁっ」
随分と集中していたようだ。こんなにも集中するなんて珍しいな。だが、これでようやく毒モンスターを捕まえに行けるな。蠱毒ってどんな感じなのだろう。楽しみだ。
よし、では休憩も終わって行こうかと思ったその時、俺は衝撃的なことに気がついた。
「あれ、今から誰を倒すんだっけ?」
そう、何も覚えていなかったのだ。速読したのはいいものの、すべての記憶が抜け落ちていた。図録を確認すると、そこには見た覚えの無いモンスター達ばかり。唯一覚えているのはホーンラビットくらいだろうか。
この感じはなんだろうか、学生時代に一夜漬けした挙句、何も覚えていなくて惨敗したときのような、そんな感じだ。
「これください」
「かしこまりました」
そう言って俺は、栞の代わりにしていたお金を使ってある本を購入した。その本の題名は、
『触るな危険! 超凶悪毒モンスター図鑑』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます