第343話 魂


「はぁー、疲れたー」


 スキル、称号を封印した上でもう一度スープ地獄を味わうとはな。まさかだったが、これで俺も晴れて、現実でも料理ができる体となったことだろう。


 一人暮らしの俺は自炊しようといつも思うのだが、結局できなかった。何を作ればいいのか分からないし、作りたいものがあっても作れる気がしなかった。


 でも、これのおかげで俺は自炊に目覚めるだろう。現実でもできるかを試して、できたらスープから始めて行きたい。


 それに、ステータスを封じても案外上手くいった。どうしても手際が落ちてしまう部分や、繊細な匂いを嗅ぎ分けたりは難しかったが、それでも何度もやっていくうちに体が自然と覚えていった。まあ、もともと一通りやったことのあるものだからな。補助輪を外すようなイメージだ。


 そして、スープ作りの全てが終了した時、



ーーー称号《飽くなき料理魂》を獲得しました。



《飽くなき料理魂》‥ステータスを何も振らない状態で下級料理人まで到達する。料理完成時に効果補正大。料理人の新たな道を切り拓く。


 こんな称号を手に入れた。俺はただ、現実世界でも料理がしたかっただけだが、それでも無意味では無かったようだ。何ももらえなくても仕方がないと思っていただけに、地味に嬉しい。


 しかも、気になる文言があるのだ。それは、「料理人の新たな道を切り拓く」という最後の文だ。


 これがどういう意味を指しているのか分からないが、料理の修行をする時は必ず、ステータスを無にしてからしようと思う。そうすれば、一週間という期限があって、休みやすいし、モチベーションもしっかり保てそうだ。


 とりあえずはもうスープ作りで一週間が解けてしまったから、一日休んでから、また悪魔の契約をしたいと思う。


 ❇︎


 ふう、一日休むとだいぶ楽だなー。まあ、ずーっと寝てただけなんだが。よし、さっさと契約してから婆さんの所に行こう。前回は中級に向かうはずだったのにまた同じことをさせてしまったからな。


 婆さんはいつも笑ってくれるが、内心では面倒くさいとか思ってるかもしれないし、シンプルに時間を奪っているのだから、なるべく早く成長したいと思ってる。婆さんにも本業があるしな。


 ちょくちょく店に来る人がいるが、この店に来る時は皆顔が死んでいるのに、料理を食べると必ず笑顔になっている。そんな婆さんみたいな料理人は少し憧れる。料理を始めたことでその難しさも実感してるし、尊敬の念しかない。


 人を必ず笑顔にさせる料理人、なんてかっこいいんだ。その為にも俺は頑張るぞ。まあ、師匠には笑顔の後に少しだけ苦しんでもらうけどな。


 ってなわけで、


「本日もよろしくお願いしますっ!」


「いひひひ、今日も元気がいいねぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る