第339話 束の間の休息


「ふぅ」


 俺は婆さんに言って少し休暇をもらうことにした。これだけの修行を積んでもまだ下級料理人までしかなれなかったため、先がまだまだ長そうであるから、一旦区切りがいいここで用事を済ませておこうと思ったのだ。


 目指すは最高の料理人だが、それも簡単にすぐなれるものではないと思うからな。時間をかけてゆっくりと目指していく。


 そして今回、休暇をもらったのは、以前注文していた装備を受け取りに行こうと思ったのだ。随分前に今着用している装備をもらった時についでに武器の製作も依頼していたのだ。流石にもう完成しているだろうからそれを受け取りにいく。


 あの爺さんは元気にしているだろうか。


「ごめんくださーい」


 鍛冶屋に到着し、中に入るとそこは安定の薄暗さだった。このお店は一見さんを呼び込む気はあるのだろうかと疑ってしまうほどには、入りづらい雰囲気ではあるのだが、腕は確かなので俺はありがたく使わせて貰っている。


 もう、何度目になるかもわからない、爺さんとの対面。最初の頃と比べれば随分と慣れたもんだな。


「以前、お願いした武器なんですが、どうですかね?」


「随分と取りに来るのが遅かったではないか。もうとっくにできておる、早く受け取ってくれ」


 あ、そうだった。確か悪魔の装備はあるだけでその精神が蝕まれていくみたいな効果があった気がする。まずいな。爺さんには迷惑をかけてしまったな。


「すみません、いろいろ事情が重なってしまったもので……それで、こちらがその武器ということでいいんですよね?」


「そうじゃ」


 そこにあった武器はなんと、漆黒の刀身をした、短剣だった。


 いや、短剣と言うには些か長い気もするが、俺が今使っている剣よりかは確実に短い。だがそれでも放つオーラというか、存在感は引けを取らない。見るだけで強いと分かる、そんな一品だ。そして、詳しく見てみると、


・悪魔の脇差 悪魔級

悪魔(準男爵)の素材を元に作られた脇差。悪魔の禍々しさと毒々しさを宿している。職人の技によって最大限に素材が生かされている。この武器を装備時、スキル【悪魔との契約】を使用可能。この武器の使用者は精神を侵されていく。


 わーお、相変わらずだな。基本的には今使っている防具と変わらないのだが、使えるようになるスキルがまた恐ろしいものだ。その効果は、


【悪魔との契約】‥戦闘中、悪魔をその身に宿すことで爆発的な力を得ることができる。ただしその代償として、スキル使用後は一週間、全スキル、称号が無効となり、ステータスも半減する。


 やば、なんだこのスキル。効果がざっくりしているなーと思っていたけど、こんな代償をつけられたら、さぞ凄い力なんだろう。まあ、実際悪魔との契約っていうくらいだからハイリスクハイリターンなのは間違い無いだろうけど、それにしてまた、少年心を擽られるスキルだなー、一度でいいから使ってみたくなるよな。


 まあ、いつか使わないといけない日が来るだろうし、今すぐにどうこうって焦る必要もないな。


 それに、まだ爺さんへのお礼もまだだな。ここらでしっかりと爺さんにお礼の気持ちを伝えておかないと。これからも爺さんのお世話になることは間違いないし、爺さんのおかげで素晴らしい装備を手に入れることができているんだからな。


「爺さん、いつもあざっす!」


 俺は深々と頭を下げた。

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