第334話 複合的なハーモニー
ここはどこだ? なんか薄暗い路地のような場所にいるんだが、この街は王都じゃないのか? それとも、この街の中に王都と呼ばれるエリアがあるだけでこの街全体が王都ではないのか?
まあ、最悪ハーゲンを使えばなんとかなるだろうからとりあえず歩き回ろう。
あ、今気づいた。俺、スキルの韋駄天走使ってるからそれでおかしくなっているのか。ハーゲンとどっちが速いかは分からないが、それでもかなり速い。多分、通り過ぎているのだろう。ここを少し探索して何も無ければハーゲンに王都まで連れて行ってもらうか。
ん? こんなところにお店があるぞ? しかも少しいい匂いがする。折角こんな所まできたのだから少し寄ってみよう。どうせあとですぐに王都にはいけるからな。
ガチャ
「いひひひ、いらっしゃい、見ない顔だねぇ。注文はどうするかい?」
そこには、魔女のような、狐のような、そんなお婆さんがいた。確実にやばい雰囲気を放っている。それに、注文ってここは何屋さんなんだ?
「すいません、近くを通ったので試しに寄ってみたのです。ここのお店のメニューはありますか?」
「いひひひひ、メニューなんかはないねぇ。お前さんががお好きなものを注文するんだねぇ」
メニューが無いお店なのか。なら、俺の今なんとなく食べたい、気まぐれで頼んでしまおう。
「麺類が食べたいです」
「いひひひひ、麺類、少し待つんだねぇ」
その言葉通り俺は少しの間待った。その時間およそ十分から十五分くらいだろうか、厨房にいる婆さんが俺に向かって料理を飛ばしてきた。これは何かしらの魔法だろう。だが、それはどんな魔法なんだろうか。単なる投擲技術なわけはないだろうし、少し気になるな。
だが、そんな俺の気持ちも一瞬にして何処かへ消え去ってしまった。そう、俺の目の前に舞い降りてきた、一つの料理によって。
その料理の見た目はなんといえば良いのだろうか。麺は黄色でラーメンっぽいのだが、スープは出汁が効いてそうな茶色だ。上に乗っている野菜は鮮やかな緑をしているし、お肉をたっぷり入っている。すこし、ベトナム料理のフォーみたいでもある。
匂いも芳潤で深みがある。嗅いだだけではなんの匂いなのか分からないほどに重層的で、それぞれの素材の良さが何倍にも掛け合わされているのだろう。
俺は口に入れる前にもう、よだれが洪水のように押し寄せてきた。旨いのは確信しているし、全身の細胞が食べたいと叫んでいる。もう、食べるしかない!
「いただきます!」
ズズズズズッ
麺類はこの啜る感じがたまらなく好きなのだ。啜った時の鼻から抜ける感じの匂いと一瞬で口いっぱいに広がる味、もうどれをとっても好きなのだ。
「うんまあっ!」
なんていうんだろうか。なんて表現するかも迷うレベルで深い、深い味だ。いろんな味が複雑に絡まり合っているのはわかるんだがそれらが驚くべきほどに、喧嘩しておらず、素晴らしいハーモニーを奏でている。
しかも麺にも味がついており、付け合わせの野菜やお肉を食べるか食べないかでまた味が変わって、飽きずに無限に食べられる。これは最高のレストランを見つけてしまったかも知れない。
「いひひひひ、ここの料理を食べて死ななかったのはお前さんが初めてだねぇ。お前さん、一体どういう体をしているんだい?」
「……え?」
「いひひひひ、お店の名前を見ていなかったのかねぇ。ようこそ、食死処、甘美なる最後へ、だねぇ」
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