第327話 水中毒


 ゴクゴクゴクゴクッ


「うぇ」


 もう何杯目だろうか、とてもしんどいぞこれ。ただひたすら飲み続けるだけでもきついっていうのに、なんか怠さも感じる。頭も少し痛いような気がするし、これは案外ハズレの死に方なのか?


 ゴクゴクゴク


「おぇええ」


 やばい、なんか吐きそうだぞこれ。逆にゲーム内で吐くとかかなりレアなんじゃないのか? かといって吐きたいとかそういうわけではないんだが、もし吐いてしまったらどうすればいいんだ?


 これはミスったな。水中毒についてもっと調べておけばよかった、どんな症状が出るとか、どのくらい飲んだら死に至るのかとか、ただそういうものがあるっていうだけでここまで来てしまったからな。ゴールの見えないマラソンなんて今すぐやめたいぞ。


「うっ……」


 とうとう吐き気がマックスだ。ん? いや待てよ? ゴールが見えないって俺は言ったけど、どれくらい進んでいるかは測れるよな? 例えば今の吐き気みたいに、いよいよ吐きそうなのか、ただ吐き気があるだけなのかは全然進行度が違うよな?


 つまり、今体に出てる症状をマックスまで持っていけば確実に水中毒を前に進めることができるはずだ! よし、とりあえずまずは吐こう。


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクッ


「オェッ」


 まだ吐いていない。お腹に水が溜まっているのがわかるな。揺らしたらチャプチャプなりそうだ。


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク


「おぇええええええええ」


 あ、そう言えば俺、湖のなかにいるんだった。そして今し方やっと吐くことが出来たんだが、それを綺麗な湖の中にスプラッシュしてしまったぞ。それに吐瀉物もキラキラしていて、どこか幻想的だ。


 これでやっと吐けたがまだ死んでない。もっと飲まなければ。


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク


 なんだろう、この感覚は。頭が痛いとはまた何か違う、これはそう、薬物を摂取したときに近いような、そんな感覚だ。体が引き裂かれそうな、それでいて手足が痺れるように震えている気がする。もう飲みたくな


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク


「はっ!」


 どうやら俺は死んでいたようだ。最後の方は訳が分からなくなっていたな。正直とても続けようとは思わないレベルだ。もう、やめようかと思ったが、分割思考でもう一人の俺が無理やり飲ませてくれたって感じだな。


 ってかこの症状が現実でも起こりうるってことだろう? それはかなり恐ろしいな! 水は飲まなかったら飲まなかったらで脱水症状とか熱中症とかかかるくせに飲み過ぎたら飲み過ぎたでこうなるのかよ。人間の体は本当に脆いよな。


 まあ、こんな一度に大量に飲まなければ済む話か。誰だよ、こんなに一気飲みした奴はよー……


 よし、こっから地獄の周回だな。こんなに気乗りしないのも初めてなんだが、久しぶりで死に対する抵抗がまた出てきたのかもしれないな。


 いつでも死ねる体だからこそ、いつでも死ぬ覚悟があるからこそ、今生きている感覚が、今生きているという実感が輝くのだろう。だからもっと死に近づかないとダメだな。


 そう、星が死ぬ間際に一番輝くように。

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