第254話 選択と強運


 吸血鬼もどきは殺し方を一度知ってしまえばかなり楽になるな。知らなければ無限に再生して襲ってくるから、キツすぎる。まあ、こういう弱点ありきであの強さなのだろう。弱点がなければ強すぎるしな。


 それにしてもこれで良いのか? 俺はただひたすらもどきをシバいているだけだぞ? ストーリーが進むなら早く進んで欲しい、進まないのなら誰か教えてくれ。


 そんな泣き言を脳内で漏らしながら十何体目かのもどきを処理した。そしてまた街道に戻ると、なんと家の明かりが点いていたのだ。しかもたった二軒だけだ。その他の家は背景に同化しており、明かりが点いているかも分からない。ただその二軒だけが遠くから見ても分かるほど明るくなっていた。


 これは恐らく、俺がもどきを倒しまくった事によってストーリーが進んだのだろう。俺のやっていた事は間違いではなかったらしい。


 だが、二軒か。どちらとも行ける、って訳では恐らくないのだろう。片方に行けばもう片方には行けない気がする。そしてそういう場合は大抵どちらかが外れでどちらかが当たりなのだ。その度合いが分からないため、慎重に行きたいところだが、なんせ手がかりが殆ど無い。


 となると無理矢理にでも手がかりを見つけるしかないな。両者を比較して相違点を洗い出すとしよう。先ずは右と左ってとこだな、これは街道を挟んで両側にあるから当然っちゃ当然だ。個人的には右の方が好きだがこれは判断基準たり得ない。


 次の相違点は窓だ、窓の個数と大きさが違う。右の窓が大きく数が二個と少ない。左の窓は数は多いが一つ一つは小さく全部で五個ある。窓の総面積で比べた場合、同じように見えるが、果たしてどうなのだろうか。


 うん、相違点って別に手掛かりになる訳じゃないんだな。ただ俺の印象が変わるだけだ。もしかしたら大きな違いがあるかもしれないが、それを見つけるためには途方もなく時間がかかりそうだ。


 あっ、でも引いて見てみると意外と違うとこあるんだな。屋根の色、ドアの大きさ。煙突の形とか。どれもだからなんだよってものばかりだが、違いは沢山あった。まあ、もういいや。こんなところでモタモタせずにとりあえず行って見ようか。


 俺が行くのは個人的に好きな右の家だ。もうこれだけで良かったな。もし左に行って外れだった場合のショックが大きいから、よっぽどのことが無い限り右という選択肢しかなかったんだがな。


 コンコン


「ごめんくださーい」


 ギーーッ


 ドアが開いて中から出てきたのは女性だった。長髪で俺よりは歳はいってそうな見た目である。が、普通に綺麗で、いかにも大人の女性っていう感じだな。格好がこの時代に合わせられているのか少し古い。スカートなんかも布をいくつか継ぎ合わせて作ったような見た目をしている。


「あら、どうされましたのこんな時間に。この時間は血を吸う鬼が出てくると言い伝えられていますのよ。もし行くあてが無く彷徨っているのなら中にお入り。一晩なら泊めてあげるわよ」


 なるほど、ここの住民達は吸血鬼の存在を知っているのか。それらがこの時間帯に出ることも。だから皆家に引き篭もって夜が明けるのを待っているのだろう。


 これだけの情報が得られるだけでもかなりありがたいのだが、一晩泊めてくれるとは、なんてありがたいんだ。これは間違いなくストーリーが進むってことだろうし、しばし休息の時間というのもいいな。俺は寝ることはないし、ゆっくり夜が明けるまで寛ぐとしよう。


「あら、貴方は寝ないの? 私は少し用事があるからベッドを使って良いわよ」


「え? いいんですか?」


 泊めてくれるだけでなく、ベッドも貸してくれるとは確実に俺は当たりを引いたな。俺の強運に感謝して今日はゆっくり休むか。


 そうして俺はベッドの中に飛び込んだ。




 カプッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る