第243話 救済者


 巨大化した時に崩れ落ちた土を回収し終えると、ようやく人々を地上に運ぶことが出来た。この後、彼らに行くあてがあるのかと聞いたところ、大丈夫そうだったため、彼らとはここでお別れだ。


 短い時間だったが、とても感謝された。もう本当にあそこの牢獄生活は地獄だったのだろう。しかも、自分達が何か悪いことをしたわけでもないのにな。理不尽極まりない。


 理不尽なことってどうしてこんなにも感情を揺さぶられるのだろうか。どうしようもないことが心のどこかでは理解しているが故なのだろうか。


 この世界の俺のようにある程度力をつければ、理不尽に少しでも対応は出来るのだが、彼ら含め現実の俺のような存在では理不尽になんて到底太刀打ちできるものではない。


 俺がこうして人を助けたのも、誰かに助けてもらえることを無意識に望んでいたからだったのだろうか。現実の俺も強くなれるよう努力しないといけないな。


 俺は彼らを送り出す際に、あまりにも弱っていた体を回復させていた。皆が皆衰弱し切っているためこのまま帰らせてもただ死ぬだけだろうからな。そうやって、三十名以上の体力を回復していると、


ーーー称号《救済者》を獲得しました。


《救済者》‥多くの人の傷を癒し、希望を与える。回復量が微上昇し、スキル【救済之光】を取得。


【救済之光】‥あらゆる状態異常から回復させ、僅かにHPも回復させる。


 おー、これはなかなか良い感じのスキルだな。回復系が充実してくるのはシンプルに従魔の生存確率上昇に繋がるからありがたい。俺の戦闘が楽になるしな。


「ふぅ」


 なかなかキツかったな。大きくなって小さくなるっていうたったそれだけのことしかしてないのだが、何故か体の倦怠感が凄い。こんな感じは初めてだな。普通に気のせいだろう。


 回復させた後に運んだから、怖がる子供も楽しむ子供もいた。回復させなかったら喜びも楽しみも恐怖も感じることはなかっただろうから、そうすれば良かったかなと思いつつ、これで一旦、人員の救助は完了した。回復もしたし、無事帰ってくれればいいな。あと、俺に出来ることといえば、祈ることくらいだからな。


 だから、これ以上は切り替えてモンスターの救助に向かおう。モンスターは人間に比べて数が少ないからすぐ終わるだろう。


 モンスターの檻に戻ると、疲弊はしているものの、俺が檻の前までくるとガシャンと檻にぶつかり俺に威嚇してきた。比較的元気なようだ。人間達よりも後に入れられたか、普通に生命力の違いなのか、まあ元気なことは良いことだ。


 よし、まず先に回復をして俺が味方であることを伝えよう。人間達の時は皆衰退しきってたから、有無を言わさずに行動できたし、身なりの違いとか雰囲気で俺が悪い輩ではないと判断できたのだろう。チェーンも持ってないしな。


 ただ、モンスターの場合はどこまで認識しているかは分からないが、俺が人間である時点でもう敵だと思われてそうだからな。一体ずつ丁寧に回復を施していく。


 モンスターは全部で五体。猿、犬、羊、馬、ライオンだ。ライオンは毛並みが白いため、鑑賞用かもしれないが戦闘要員でもあるだろう。この馬は移動手段用か。めちゃくちゃ速いのか? 羊は毛が本当に美しい。輝きを放っているほどだ。これが高く売れそうなのはなんとなくわかるぞ。そして、犬、お前は大っきい、でもそれだけだな。こいつも高く売れるのか? あと、猿、どっからどう見ても猿、お前いるって感じの一人だけ場違い感が酷いやつだ。


 こいつらは外に放つだけで良いのか? 人間は近場でも遠くでも変わらないから近場で調達するのは分かるが、モンスターはそれぞれによって生息地が違うからな、放てば良いっていう問題ではなさそうだな。


 まあ、一旦放ってから考えるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る