第90話 窒息


 そこは他とは地面の色が少し違っていて、濃く何かがありそうな雰囲気だったのだ。


 しかし、よくよく考えてみれば、ゲームではアイテムがあったりすることはあるかもしれないが、現実ではまずない。あったとしてもただの偶然で何もないだろう。


 そしてここは現実により近いゲームの世界だ。とてもリアルで、それと同時にファンタジーなのだ。


 つまり何が言いたいかと言うと、俺は今、地面に埋まっている。トラップにハマってしまったようだ。トラップといっても恐らく人工的なものではない、天然物のトラップだ。地面がぬかるんでいて、ズボッ、と中に埋まってしまったのだ。


 これは恐らく流砂と呼ばれる現象だ。地中に湧き出た水と砂が混ざり合い、泥のようになったのだ。しかし、泥というよりは沼といった方がいいだろうか、外に出ようともがけばもがくほど、どんどん地中に埋まっていく。


 やばい、これが現実で起きたらまず間違いなく、パニックになる。気温は俺が感じている以上に高いだろうし、死の経験も無い為、現実世界の人がこれに襲われたら普通に死ぬだろう。それほど、やばいし、悪意が強い。でも、これは自然の産物だから、知識さえあれば回避できるのだろうな。


 だが、俺からすると、これは非常に美味しい。死ぬことも怖くないから、パニックにもならない、むしろ喜んで死のうじゃないか。


 今俺は、脇の辺りまで埋まっている。試しに外に出ようともがいているが、出られる気配は無く、更に沈んでしまう。うん、これは無理だな。俺が現実世界でこれに会ったら、人が来るまで待機だな。


 よし、ではもう、自分から潜ろう。まるで地面に垂直に置かれた寝袋に入るように、もぞもぞとしてみる。すると、面白いように体が沈んでいく。


 もう、完全に沈み込んでしまったようだな。よし、って、やばい、息が出来ない。そりゃ地中なんだから、当たり前だろって思うかもしれないが、息が出来ないって意外ときつい、息を吸おうとしても、空気がやって来ないのだ。もし、海中なら、海水を飲み込んでしまうんだろうが、それもない。いや、泥を飲み込んでしまっ……


「おぉぇー、ぺっ」


 死に戻ってた。これ結構きつい。今までやってきた中でもかなり上位だ。理由は、死ぬまでが長い、死ぬまでがきつい、泥が鼻と口に押し寄せてくる。精神的ダメージが酷い……


 人生において、泥を食べることがあるだろうか? 嫌ない、断じて無いだろう。日本人なら特にな。


 うわー、やりたくないなー、でもやるしかないよなー。うん、逝ってきます。


ーーースキル【窒息無効】

   スキル【泥雪無効】

   スキル【解脱】を獲得しました。


「【精神耐性】、【恐怖耐性】は【解脱】に統合されます。」


【窒息無効】‥生きていく上で酸素を不必要とする。


【泥雪無効】‥地面が泥、雪の場合、地形の影響を受けずに行動できる。また、泥雪が装備に付着しなくなる。


【解脱】‥悟りを開く。何事にも動じなくなり、俯瞰的な視点から物事を考えられる様になる。また、世界の神秘に近づきやすくなる。


 はい、只今戻りました。いつからだろうか、もう、何も感じなくなって、ただ淡々と埋まっては死に、埋まっては死にを繰り返していた。スキルを獲得して嬉しいのは泥雪無効だな。汚れが全部落ちて、もう、流砂にハマることすら出来なくなってしまった。これで、もう流砂とはお別れだな。


 うん、ある意味いい経験だったわ。


 それにしても、今回もいろいろ思ってたのとは別のスキルとかもゲットしちゃってるけど、なんか今はいいや、なんか、寝たい。安心してぐっすり寝たい。

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