幕間

 全ては虚構だ。人間は物語に従って生きている。


 例えば戦争や狩猟は仲間達と作戦という名の物語を信じて成果を上げてきた。そして貨幣や法律。他人の作り出した物語を信じているからこそ、今のこの世界は成り立っている。


 人間の生き甲斐も、信条も、宗教も、結婚も全て虚構だ。


 貴方自身だってそうだ。


 虚構、嘘、物語に過ぎない。


 そして愚かにも人は未来を物語る。


 それは豊かな未来か、それとも地獄の炎が照らし出す絶望的な未来か。


 格差社会、人種差別、核戦争、地球温暖化、この地球では現在多くの問題が山積している。


 それを解決するのも物語の力が必要だ。


 しかしここにいる貴方だけが、その物語を信じても意味がない。今貴方がいるこの世界は、他人の作り上げた世界だからだ。貴方の周りにいる隣人も貴方と同じ物語を信じていなければそれは現実に反映されない。さきに挙げた問題はいつまでたっても解決しないのだ。


 悲しい現実だ。


 我々は他人を信じられない。物語は信じるのに。


 救いのない物語だ。

 

 しかし、そんな悲しい未来の物語に信憑性を持たさせる装置がここにあるとしたらどうだろうか?人々はたちまちその物語の虜になる。そしてそれが現実となる。


 SF小説はその可能性を孕んでいた。


『月は無慈悲な夜の女王』

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』


 そして、


『タイム・マシン』


 SFの父と呼ばれるH・G・ウェルズの手掛けた小説の名前ですね。


 そうです。我々の計画、ウェルズ計画はこのH・G・ウェルズの名を借り受けたものであります。


 我々は、とうとう開発したのです。


 タイムマシンを。

 

 南野ケイは片手を挙げながら大勢の拍手にこたえた。

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