第260話
剣聖オデッサの長剣セイブザクイーンは白く輝いていた。その美しい刀身に写る全てのモノは、真の姿を強いられる。対してルカの持つ黒い鎌は光を、全てを飲み込もうとしている闇のように見えた。
対称的な2つの武器が激しくぶつかり合う。
その様子を上階からひっそりと身を屈めて見る商国のトルネオ。
「見ろ!!あれこそ正に生と死!!剣聖の愛刀セイブザクイーンはその名の通り命を護り生かす剣だ!それとは逆に全てを飲み込む闇のようなあの鎌!……ガハハハハハ!!素晴らしい!!」
冒険者、竜の騎士のリーダー、ジョナサンはこの襲撃から如何にトルネオを生きて帰すかを考えていた。幸い、自分達に手を出す者はいない。
「トルネオ様……ここを出ましょう……」
トルネオはオデッサとルカの戦いから目をそらさずに言った。
「ここから出るだと!?何を馬鹿なことを!こんなにも素晴らしい戦いを見ないでどうする!?ここに生命の全てが詰まっているのだぞ!?」
トルネオが何を言っているのかジョナサンはよくわからなかった。
「しかし、いつ我々に攻撃が向くかわかりません!」
「案ずるな、周りをよく見てみろ。この襲撃を計画した国はダーマとおそらく帝国だ。だから商国の私を襲っても敵を増やすだけだ。それに奴等は一般人を眠らせている。非戦闘員には手を出さん」
ジョナサンは何か言いたげだったが、その言葉をぐっと堪えた。それを見てかトルネオは続けて述べた。
「下で戦っている冒険者達のことか……お前らの気持ちもわかるが、ここでお前達を戦わせれば私に攻撃の手が及ぶ。戦況がフルートベールに傾かない限りは申し訳ないがここにいてくれ」
ジョナサン達、竜の騎士のメンバーらは沈痛の面持ちで了承した。
トルネオは思う。
──しかし、剣聖が来たところで、あの少女……メトゥスの強さは秤知れん。
キィィィィン
鎌が円を描きながらオデッサの肩に振り下ろされる。オデッサは剣でそれを弾いた。ビリビリと手が痺れるのを感じる。今度は鎌がオデッサの腹部をかっ斬るように振り払われた。オデッサは身を屈めてそれを避けた。髪を掠め、数本が散る。防御一方のオデッサはここでようやく反撃を試みた。屈んだままの姿勢で長剣を振り上げる。
しかし、キレイに躱された。
そう思ったのも束の間、長剣を振り上げきった時には黒い鎌が影のように足元を、切断しようと向かってくる。
オデッサは飛び上がり、難を逃れたが、鎌の柄の尖端がオデッサの胸部をとらえた。
何とか刀身でそれを防いだが、後方へ飛ばされる。
オデッサは観客席からリング付近まで飛ばされながらルカが迫るのを見た。
戦士達がルカの追撃を止めようと攻撃を仕掛けるが、斬り倒される。
「クソ!」
オデッサは観客席とリングの間に着地し、しっかりとした構えから斬撃を飛ばした。
虚空を斬り裂く斬撃は物凄い勢いでルカに向かっていく……が、あっさりと弾かれる。
ルカは勢いそのままに渾身の一撃をオデッサに叩き入れた。
ギィィィィィィン
先程までの甲高い音ではなく、不細工な鈍い音が辺りに響いた。
オデッサはその一撃をなんとか受け止めた。
「ふーん」
あどけない顔のルカは少しだけ口角をあげた。その時、ルカの背後から声がする。
「うぉぉぉぁぉぉぉ!!!」
ロイドが後ろから一撃を加えようと向かっている。
オデッサは今が好機と思い、全力で鎌を押し、ルカの動きを封じようとしていた。
しかし、ルカは左手を鎌から離し、身体を開くと、背後からやってくるロイドに後ろ蹴りを入れようとする。この時オデッサは自分の全力を片手で防がれていることを認識していたが、元よりレベルさがありすぎることを重々承知していた。
ロイドは自分の攻撃を封じようとするその少女の蹴りを見て、咄嗟に攻撃対象をルカの背部からその脚へと変更し、双剣で斬り裂こうとする。
「ほお……」
ルカは呟いた。
オデッサは違和感を覚える。何故なら押していた鎌から重みが消えたからだ。そして、その違和感は混乱へと変わった。鎌は形なき影へと姿を変え、まるで生きているかのようにルカの左手へと移った。
オデッサはロイドに向かって叫ぶ。
「じぃ!!」
左手へ移った影は再び禍々しい鎌へと変形した。オデッサの叫びも虚しく、ロイドの胸部は鎌の餌食となった。
「ぐはぁ!」
ロイドは膝をついた。どうやらロイドの傷は致命傷にはならなかった。そこでまたオデッサは疑問に思う。
──おかしい……本気ではないのか?
オデッサはそう思うと、背後から熱気を感じた。
後ろを振り向くと第三階級火属性魔法と同じく第三階級水属性魔法が放たれ、ダーマの2人の少年へと向かっていく。
しかし、水属性魔法はどこからともなくやってきた矢の群れによりかき消され、フルートベール王国の誇る最強の魔法ファイアーストームは斬り払われた。
「なんという……」
オデッサは呟くと鎌を持った少女ルカは尖った八重歯を見せつけながら言った。
「もう終わりじゃな?」
アマデウスが殺られ、紅い炎が今まさに襲い掛かり翻弄されているイズナ、胸部を抑え膝を付くシルヴィアに2人の少年がそれぞれに近付きほぼ同時に剣を振り下ろす。
─────────────
イズナはオーウェンの纏う紅い炎に翻弄され、それを防ぐのに精一杯だ。ジリジリと鎧から露出している肌を焦がす。
オーウェンが眼前に迫るが反応が遅れる。
「しまった!」
オーウェンは剣を振り下ろそうとしたが、またもや第三階級水属性魔法が放たれた。
「またかよ!?」
無数の水流弾がオーウェンを襲う。
──こんな魔法…不意をつかれなければなんとかなるんだよ!!
オーウェンは向かってくる水を叩き斬るように魔剣をふるったが、弾かれる。
「なっ!」
──シャーロットの魔法よりも強力!?一発一発の威力がたけぇ……
オーウェンは叩き斬るのを止め、避けることに専念した。しかし、避ける度に空気を突き破りながら進む水流の衝撃にあおられ、身体を掠めるようにしてようやく避けきることに成功する。
──回復してなかったら、死んでいた……
心の中で再び回復の矢を放った少女ヒヨリに感謝すると、目の前に小さな男の子がナイフを持ちながら立っていた。
──コイツが術者か?
少年はナイフを逆手に持ちかえながら言った。
「どうして神様の国を襲う?」
「神様?何のことだかわからんが、そういう命令だからだな」
オーウェンはその言葉とは裏腹に冷や汗をかきながら答えた。
──コイツ……つえぇ……
「じゃあ僕が止める」
メルはオーウェンに攻撃を仕掛けた。
──────────────
アベルは魔法の剣を振り上げた。
こんなにも平常を保てないのは久し振りだ。コゼットを人質にとられ、むかっ腹が立っていた。或いは、本来どうでもいいダーマ王国の娘のために任務を放棄しかけた自分に腹が立っていたかもしれない。
アベルはそれを振り払うかのようにしてシルヴィアにとどめを刺そうとした。
シルヴィアはHPとSPが切れかかっている時に、アベルに全力で殴られ立つことすらままならなかった。
エミリアの叫びが虚しくこだまする。
「シルヴィア様ぁぁぁ!!」
シルヴィアはアベルが魔法の剣を自分に振り下ろすのをただ見ているだけだった。
──ここまでか……
シルヴィアがそう覚悟を決めた時、横から美しい銀髪と尖った耳を持つ者がアベルの魔法の剣を受け止めた。
──誰だ……いや誰だかわからぬが助かったのか……?
シルヴィアは安堵したのかその場に意識を保ちながらうつ伏せに倒れる。
アベルは数多くの者と鍛練を積んできた。その為、剣を交えただけでその者の強さを測ることができた。
──このエルフ……強敵だ……
自分よりも強い戦士達の顔が浮かぶが、始めに浮かんだのは父親の隊に所属するドルヂ・ドルゴルスレンという帝国の戦士だった。
「この国をこれ以上傷付けさせない」
ユリは押し当てたエア・ブレイドに魔力を込める。
アベルは危険を察知して離れて構えた。
イズナとシルヴィアは自分達の命をこの少年少女達に託す他なかった。
そして、最も危険な少女ルカを2人は息も絶え絶えに見やる。ルカは剣聖と血を流すロイドを差し置いて、どこにでもいそうな普通の少年と対峙していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます