第259話
シルヴィアは少女の首にあてがった長剣をおろし、解放した。コゼットは自分が穢れてしまったことを慰めるかのように両腕を身体に巻き付け、自分のせいで愛しい者が死んだのだと大炎を見つめながら絶望している。
エミリアは無事に自分の唱えた魔法が黒髪のダーマ王国の選手をとらえたことに安堵し、身体を地面に埋めた。
「もう限界……」
シルヴィアは次の戦いに標準を定めた。観客席で戦闘をしていた者達の勝鬨が響き、その中心にはレオナルドがいる。刺客はあと1人だけ確認することができた。
──あそこも時間の問題か…あとは……
シルヴィアは剣聖達と白髪の少女の戦闘を見やる。
──もはや私ではどちらが優勢なのかもわらからない……こんな戦闘があるなんて……
シルヴィアがそう思った時、アマデウスの叫び声が聞こえる。
「ぐぬおぉぉぉぉぉ」
シルヴィアは急いで視線を向けると、黒髪の少年がアマデウスの腹部を魔剣で貫いていた。
「ったく!なめたことしやがって!!」
オーウェンは引き抜いた魔剣に、付着した血を振り払っている。
「おいまだかよアベル!」
少年はそう言うとシルヴィアは今もまだ燃え続けている大炎に視線を注いだ。
─何か…変だ……
目を凝らしてよく見ると炎の渦の中央で人影が舞っているのが見える。
「こんなことが……」
シルヴィアは呟く。エミリアは、地面に突っ伏したまま恐怖におののいていた。
炎の揺らめきに合わせながら渦中の者は舞う。炎は次第に勢いを弱め、ある程度縮小すると渦の中から突風が発生したかのように四方に火の粉が飛び散り、消失した。
アベルは地面に顔がつくくらいの低い姿勢だ。その姿勢から察するに剣を高いところから一気に振り下ろしたのがうかがえる。
シルヴィアは瞳孔を見開き、これからまたこの者を相手どる算段を整えようとしたその時、上空からアベルに向かって矢が射ぬかれた。
「どこからだ!?」
シルヴィアは弓兵を探す。すると隣からコゼットの悲鳴が聞こえた。
「きゃ!」
シルヴィアは自分が先程人質にとった娘を見やるが、弓を携えた者と一緒に影の中へ潜るように消えていった。
──な、何が起きている!?
シルヴィアは視線をアベルに戻すと、アベルが眼前に迫り、シルヴィアの胸部に拳を叩き込んだ。
──射ぬかれた筈では!?
「ぐはっ!」
シルヴィアは胸部に鋭い痛みを感じながら状況を整理する。
──あの矢はHP回復の効能がある?故に、後衛に敵がもう一人いたのか……そいつがエミリアのアクアレーザーを妨害した……
イズナは目の前で起きたことを信じられないでいた。自分の知らないところでアマデウスとエミリアが協力していたこともそうだが、無数の水流がダーマ王国の少年に当たったかと思うと、空から水流と同じ数の矢が射出され、ダーマの少年を守ったのだ。そして、矢の射出された現場を見上げるとマフラーのようなものを首に巻いた少女が次の矢を引き絞り放っているところだった。その矢は黒髪の少年に当たると、少年は倒れるどころか、今まで以上の速度をだしてアマデウスに攻撃したのだ。
──どういうことだ!?
イズナが疑問に思っていると
少年は矢を放った者に礼を言う。
「サンキュー!ヒヨリ!!」
イズナはもう一度その少女を見上げるともうそこにはいなかった。そして、アマデウスが殺られた中、この少年と対峙することに神経を集中させようとしたが、赤い炎がイズナを襲う。
─────────────
シャーロットは安堵し、深く息を吐いた。
アナスタシアが早口で質問する。
「ど、どういうこと!?」
「見てわからなかった?私達の他にもう一人、後衛がいたってわけ」
「そ、そうだけど……それにあのファイアーストームを直撃しても生きてるのって……」
「あぁ、あれはアベルじゃなきゃ出来ないから。なんか炎を斬ってるんだって」
アナスタシアは事態を飲み込めないでいると、床から声が聞こえる。
「仕事終わった」
「きゃっ!」
「うわっ」
アナスタシアとトリスタンは悲鳴をあげた。何故なら、シャーロットの影から2人の少女が現れたからだ。
「お疲れ様、ヒヨリ」
「うん。この子あげる」
ヒヨリと呼ばれた少女が気を失ったコゼットを差し出しながら言った。
「ったく!こんな小娘のせいでアベルが危なくなるなんて!!ほんと信じられない!!」
怒りを顕にするシャーロット。
「恋敵」
ヒヨリが無感情に呟く。
「違うわよ!!こんな平和ボケした娘なんてアベルはなんとも思わないわ!」
「でも人質にとられてアベル、動き止めた」
「……もうしらない!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます