第253話
「なんだ……あれ……」
「あぁぁぁぁ……」
「おえぇぇぇ!!」
とある冒険者パーティーとフルートベールの兵士達はもう少しで刺客を倒せそうだったが、とある殺気により動きが止まった。
普段なら後衛で危機を少しでも感じたら退却するように命じられていたとんがり帽子を被った魔法使いの女は着ているローブや下着がグショグショになり、失禁している。
先程殺気を放った少女ルカがこの戦闘が行われている上から舞い降りるように刺客と冒険者達の間に割って入ってきた。
前衛を張っていた王国兵と冒険者の2人は直ぐにその場から離れ、後衛にいる魔法使いの女を抱えて逃げ去ろうとしたが、身体が上手く動かない。今まで彼らは幾度も恐怖に晒され死ぬ思いをしてきたが、こんなこと初めてだった。それもその筈、2人の上半身と下半身が真っ二つに別れているのだから動けるはずかなかった。彼等に足りなかったのは死ぬ思いではなく死ぬ経験の方だった。
「~~っ!!」
後衛の魔法使いの女は声にならないうめき声をあげ、仲間の2人が真っ二つになるのを見ていた。この時、白髪ツインテールの少女が持っている大きな黒い刃の鎌が黒い人影のように動いて見えた。あまりの恐怖でそのように錯覚したのか定かではない。
少女が女に向かって鎌を振り下ろそうとした。しかし、女の眼前でその鎌は動きを止めていた。少女は後ろにいる刺客に話し掛ける。
「妾が殺してしまえば経験値が勿体ないの?お前が殺すのじゃ」
刺客の男は震える手で魔法使いの女に向かってファイアーボールを唱え焼き殺した。
「レベルは上がったか?」
「は、はい……」
「じゃあそこら辺の奴にも止めを刺せ」
刺客はルカのいうそこら辺を見やると、そこには、行きも絶え絶えなフルートベール王国兵達が這いつくばっていた。
「は、ははははは!!」
刺客の男のレベルが上がった。
────────────
ルカは次の戦場へと移動しながら目につくフルートベール王国の兵士や冒険者達を斬り刻んでいた。
「おっ♪」
王国兵と冒険者達の背が見える。その先には刺客が肩で息をしているのが見えた。一通り戦闘があり、刺客の強さを測り終えた兵士達は、誰が最初に飛び込み、犠牲となるのかお互いを牽制し合っていたが、ルカの殺気によりその探り合いが中断しているのだろう。
一番後ろにいる兵士の1人が殺気だつルカに気付いた。
「あああああああああ!!」
その叫び声でその場にいる全員がルカを見やる。
ルカは鎌を振り払う。
「「ぐあぁぁぁぁぁ」」
「「「うわぁぁぁぁぁ」」」
「「ぎゃぁぁぁぁぁ」」
一振りで10人程が死に絶えた。
──────────────
「なんだ!あの者は!!」
遠目からフルートベール王国兵が声をもらすと、その隣で顔に刻まれた皺をさらに深くし、険しい表情でルカを見るロイドが答える。
「あれは……オデッサ様が敗れた者だ……」
「なっ!?剣聖…様が!?あれは迷い事ではなかったのですか!?」
ロイドは自らを恥じた。
──あれに単身で挑んだのですか……それなのに我々は軽はずみに鍛練を積めばオデッサ様なら勝てると……言っていたのか……
「あぁ……なんてことを我々は……」
『もうあれはダメだ』
『使い物にならん』
『剣聖も落ちたな』
兵士達は唇を噛み締め、自分達が如何に愚かであったか悟る。
ロイドは意を決して叫んだ。
「我々は強大な敵とも知らず!オデッサ様に不敬をはたらいた!!もし少しでも後悔の念を抱いたのなら行動で示せ!!あの白髪の少女を倒し!!国を!仲間を!オデッサ様を!!救うぞ!!!」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」
──────────────
アンディとリッドとキャスカは痛みに喘ぎながら通路でうずくまっている。
「くはっ……」
ルナはその場に立ち尽くしていた。得意の聖属性魔法を唱えてアンディ達を回復させるべきではあるが、そのような隙を相手に見せてはならない。
それに、ルナはわからないでいた。
「どうして……どうしてこんなことをするんですか!?スタン先生!!」
スタンは普段の柔和な表情からは想像もできない冷淡な目付きでルナを見て、言った。
「貴方にはこの国から消えて貰うことになりました」
一歩、また一歩と近づくスタンにルナはなす術がなかった。その場に座り込み、全てを諦めた。スタンはルナに向かって手を伸ばす。ルナは痛みを覚悟したが、腰回りに腕を回され、担がれる。
「え!?」
ルナは疑問を口にしたが直ぐに思い直した。
──違う場所で殺すのね……
しかし、スタンの口から予想外の言葉を耳にする。
「貴方は帝国で保護をします。死んだことにした方が今後の生活もしやすいでしょう」
「な、何を言ってるんですか!?」
担がれながらルナは抵抗するが、そのまま闘技場の外へ連れ出された。
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