第247話

 城塞都市トランの方角で大きなキノコ型の爆煙が上がっている。観客達はダーマ王国の選手達の熱戦に決着がつき、試合を見守る緊張の糸が丁度緩和された瞬間、その無防備な五感にはあまりにも暴力的な爆発により狼狽える者が後をたたない。


 それは如何なる訓練を積んだ戦士でも例外ではなかった。シルヴィアを除いては……


 観客のほぼ全員がキノコ型の爆煙がどんどん大きくなる様子を観察していた。しかし、シルヴィアは闘技場全体が見渡せる上階にある特別観覧席から不穏な動きをする者を捉えていた。シルヴィアの丁度正面の一階席、キャスケットと呼ばれる帽子を被り、そこから溢れ出る長い水色の髪を持つ者だ。その者は手にしているロッドに魔力を込める。


 シルヴィアは観覧席の落下防止の為に作られた石造りの柵に右足をかけたかと思えば、水色の髪の乙女に向かって一直線に飛んだ。


「シルヴィア様!?」

「!??」


 エミリアはシルヴィアの突然の行動に驚いた。対して議長ブライアンは何が起きたのか定かでなかった。


 空中に遮るものはない。シルヴィアは空気抵抗をなくそうとさらに前傾姿勢をとる。目標の水色の髪をした少女までもう少し、シルヴィアは腰にさした長剣に手をかけたが、視界の斜め上から飛来する何かを確認した。


 シルヴィアは空中でその何かを見やると、先程までリング上で熱戦を繰り広げていた浅黒い肌をした少年が長剣を振り下ろそうとしている瞬間だった。


「くっ!」


 シルヴィアは何とか自身の持つ長剣でその攻撃を食い止めたのだが、リングと観客席の間に不時着する羽目になった。着地したシルヴィアは直ぐに水色の髪の少女を見た。すると彼女はある魔法を唱える。


「スリーピング・フォレスト」


 空からたくさんの白い珠が闘技場全体に空気抵抗を受けながらゆらゆらと降り注ぐ。


───────────────


「「きゃーー!!」」


 悲鳴の上がる闘技場。


 観客達は今自分達の置かれている状況を把握し、差し迫った脅威が訪れていないことを確認すると口々に言った。


「爆発!?」

「こわ~~い」

「事故かな?」 


 爆音がした方向を見やると、見たこともない大きなキノコ型の爆煙が見えた。


 その爆煙は徐々に大きくなり、まるで煙事態に生命が宿っているように思えた。煙の成長を見届けていると今度は雪のように白くふわふわした珠が闘技場に降り注ぐ。


「何これ?」

「雪?」

「きれい……」


 観客の一人がそれに触れると、バタリと倒れ、眠りにつく。


「え?」

「どういう……こと……」


 次々と眠りにつく観客達、これは魔法によるモノだと直ぐに気付いたのは戦士と魔法使い、魔法学校の生徒達だ。


 ある者は剣で、ある者は魔法でそれぞれ白い珠に触れぬよう防御する。


 しかし、他の観客達に魔法や剣先が当たらぬようにして白い珠を防ぐのは至難の技だった。


「ファイアーボール!」

「ウィンドカッター!」


 空に向かってそれぞれの属性魔法が飛び行く様子を見て眠りにつく者達。そんな中、フルートベール王国の魔法学校1年生Aクラスの生徒達は集まって奮闘していた。


「クライネ!後ろ!!」

 

「はい!」


 ゼルダはクライネに注意を促す。クライネは後ろを振り向いて舞い落ちてくる白い珠にファイアーボールをぶつけた。


「アレン!」


 スコートが呼ぶ。


「わかってるよ!」


 スコートとアレンはお互いの上空から降り注ぐ白い珠に魔法を命中させた。


 しかし、


「ウィンドカッター」


 どこからともなく射出された風の刃がアレンの首目掛けて唱えられた。


「危ない!」


 スコートはアレンを押し飛ばした。観客席はすり鉢上になっている為、結構な高さから転げ落ちることとなる。


 スコートとアレンはお互いが無事なのを確認すると先程のウィンドカッターを唱えた者を見やる。


 その者は深々と被った黒いフードをとって言った。


「なかなか、やりますね。さぁ私にレベル上げをさせてください!Aクラスの皆さん!!」


────────────


 魔法に対しての知識や抵抗があまりない民間人とそうでない者達とに別れ始めた。


 これからこのふざけた魔法を唱えた者を捕らえようと考えたレオナルドはイズナに目を合わせた。


 イズナは国王の警護をする為、その任をレオナルドに託す。


「術者は必ずどこかに……」


 そう考えていると観客席から叫び声が聞こえた。


 ギラバは観客席を見やる。


「くそ!潜り込ませていたか!!」


 観客に敵が紛れていたのだ。


「一体どの国が!?」


 レオナルドがそう訊くと、この上階にある特別な観覧席にある人物が飛んできた。


 シルヴィアだ。


 シルヴィアは観覧席の壁に叩きつけられ、直ぐにそこを足場にして、ここまで彼女を飛ばした相手に向かって飛んで行った。


 シルヴィアの行く先を見たレオナルド達はその相手を見て答えが一致する。


「帝国とダーマだ」


 レオナルドはシルヴィアの助太刀をしにダーマ王国の少年に向かおうとしたが、


「よっと」


 ダーマ王国のもう一人の選手が落下防止の柵に仁王立ちしている。その者は黒髪を揺らし、MP回復ポーションを飲みながら言った。


「おっさん達の相手は俺様だからな!」

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