第240話

◆ ◆ ◆ ◆


「ダーマ王国め……」


 ヴァレリー法国の魔法学校の教師ヴォリシェヴィキはダーマ王国の生徒が2人も2回戦に進んだことを悔しがっていた。ヴォリシェヴィキはダーマ王国の代表選手の強さに違和感など抱く余地がなかった。その時──。


「貴殿がヴァレリー法国魔法学園の教師ヴォリシェヴィキで相違ないな?」


 ヴォリシェヴィキの背後から女性の声が聞こえた。その声は威厳に溢れていた。隣にいた第四試合に出番があるヴァレリー法国代表選手のオリガはその声を聞いて、直ぐに振り返った。自分の憧れの人だと一瞬でわかったからだ。しかしヴォリシェヴィキはまだわからないでいる。それどころかまだ振り向かない。何故なら、どこぞの者かも知れぬ者に異国の地で舐められるわけにはいかないと思っていたからである。ヴォリシェヴィキは少し無作法に振る舞った。


「如何にも?私がヴァレリー法国魔法学園の教師ヴォリシェヴィキだが?……それよりもまず自分から名乗るべ……」


 ヴォリシェヴィキはそれこそ威厳に満ちた素振りでゆっくりと振り返った……が、そこにいたのは自国の最高戦力である将軍が立っていた。


「シ!シル!!シルヴィア様!!どうしてここへ!?」


 ヴォリシェヴィキの情けなく大きな声に反応した者達とシルヴィアの美しさにみとれる者、つまり、周囲にいたすべての者がシルヴィアに注目を集めていた。


「ここでは目立ち過ぎる。場所を変えよう」


────────────


「そ、それで何かご用ですか?」


「あぁ……貴殿はダーマ王国魔法学校の教師とは交流があるか?」


「はい。それなりにあります」


「では、いま来ているダーマ王国の教師のことは知っているか?」


「はい。ちらと見ましたがあれはツヴァイという闇属性魔法の専門家ですね」


「わかった。少し探りを入れてくれないか?」


「それは……何故ですか?」


「貴殿も見ていたであろう?ダーマ王国の生徒達の戦いを……」


◆ ◆ ◆ ◆


 あの冷静で、聡明で、武の達人のシルヴィア様と同程度の強さがあるやもしれぬと聞いてヴォリシェヴィキは直ぐに行動を移した。


「私のことは覚えていらっしゃるでしょうか?」


「勿論です!ヴァレリー法国のヴォリシェヴィキ先生」


「宜しければ隣に座っても?」


「ええ!どうぞ」


 ヴォリシェヴィキは腰掛けるとさっそく質問した。


「1回戦突破、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 ツヴァイの反応は単調だった。喜ぶでも、敗退した選手を気遣っているわけでもない。


「嬉しくないのですか?」


「嬉しいですとも」


「それにしても凄かったですね!2人とも魔法を使わずに勝ってしまいました!一体どのような訓練を?」


 ツヴァイは嘘をつこうかと迷った。しかし、ここは敢えて本当のことを言う。嘘を見抜かれないコツは本当のことに少しだけ嘘を混ぜることだ。


「実はあまりよく知らないのですよ」


「知らない?そんなことがありますか?」


「はい。彼等はまだ1年生でしてね、私の担当する授業は主に3年生なので彼等のことを詳しく知らないのですよ」


 ヴォリシェヴィキは思った。


 ──うまく躱されたか……


 しかしヴォリシェヴィキの攻撃は続く。


「もう一人の選手が見当たりませんが……」


「選手控え室におります」


 ツヴァイがそう答えるとヴォリシェヴィキは周りを見渡しながらさらに質問した。


「観覧しているそちらの生徒や貴族が少ないようですが?」


「え、えぇ……昨今の我が国の財政が芳しくありませんので……それにヴァレリー法国と違って我々の住む地からここまで距離があるゆえ……」


『第三試合!!ヴァレリー法国魔法学園高等学校3年生ドロフェイ・バフェンコ!!対!フルートベール王国王立魔法高等学校1年生レイ・ブラッドベル!!』


 アナウンスが入るとツヴァイは無理矢理話題を反らした。


「さぁ、貴方の所の生徒さんが出場しますよ!?」


 ツヴァイの一言でヴォリシェヴィキはその場をあとにした。あれ以上詮索すると勘づかれそうだと思ったのだ。


 ──あの受け答え…会話をしたくないのか?無理矢理話題を変えていた……本当に何か企んでいる……?


『始め!!』


 ヴォリシェヴィキが自席に着く前に試合が開始された。


─────────────


「いけぇぇぇぇ!!!」

「レイーー!!!」


 レイはシューティングアローを無数に唱えて攪乱する。光の矢は小柄なドロフェイに向かって放たれる。


「くっ!ファイアーウォール!!」


 ドロフェイの足元に魔方陣が浮かび上がり、炎が吹き出す。光の矢は炎に飲まれ防がれた。


「ファイアーウォールを解けばまたあの魔法が襲ってくる……」


 ドロフェイは自ら作り出した炎の壁の向こう側を想像した。レイが今か今かと待ち構えているに違いないと予想する。


 ドロフェイは更に魔力を込めて炎の壁をそのまま前進させた。リング上を焼き焦がしながら横断する。その壁は場外へ出ると消失した。ドロフェイは焦る。なぜならレイの姿が見当たらないからだ。直ぐ様リング上全てを見渡そうとしたその時、背後から鈍器で殴られたような衝撃が走った。


「後ろか!」


 ドロフェイは振り向いたが、そこには誰もいなかった。上空から声が聞こえる。


「上だ」


 ドロフェイは顎をそらし、視線を上へ向けると、レイが空高くから光の剣を大上段に構えているのが見えた。


 レイは光の剣を叩きおろした。


 ドロフェイの腕輪が壊れる。


『勝者!!レイ・ブラッドベル!!』


「きゃーーーー!!!」

「レイーーーー!!」

「かっこいい!!」


 はしゃぐマリアとアレックス。

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