三國魔法大会編
第235話
~ハルが異世界召喚されてから13日目~
<帝国領>
マキャベリーは古びた分厚い本を斜めに傾斜している机に置いて読んでいた。
『クレセントとは、古代語で三日月という意味です。古代語には様々な三日月の読み方があります。同じ文字なのにそれが組み合わせによっては別の読み方になったりするのです。三日月をクレセントと読んだり、クロワッサンと読んだり、モーントズィッヒェルと読んだり非常に複雑です。この三日月は我々で言うところのヘレネに当たります。ヘレネも周期によって形を変えますよね?このようなクレセント、つまり三日月型になることもあるわけです。』
ここまでが、一般で公開されているレガリア女史の裁判記録だ。この続きが記されているこの本は禁忌に触れているため教皇の厳重な管理の元、保管されている筈なのだが何故だか今は帝国領のマキャベリーの部屋にある。
『ここで皆様に質問です。ひと月とはなんですか?……そう、暦の単位のことですね?では、ひと月の月とは何ですか?そうです。私が今までに何度も言っている三日月のことをさします。これは古代人が用いていた言語が今の私達の生活に浸透していることを決定づけているということです。では何故我々は月をヘレネと呼ぶようになったのか、私は調べましたが、わかりませんでした……しかし、我々が何故ひと月という古代人が使っていた単位を用いているのか、という証拠も出てきていないのです。とってつけたような、そんな曖昧な共通認識によって我々が生活しているこの世界は成り立っております。しかし、ここにある古代人の造る記録文書や小説、詩にはとても秩序だった世界が造られております。そこには確かな歴史と確かな想いが語り継がれているのです。皆様は古代人の小説や生活様式の資料などがどのように発見されるかご存知ですか?』
マキャベリーはページを捲る。
『そうです。土に埋まった状態で発見されます。骨やガラスや建造物などは長い年月により地中深くに埋まっております。もしくは手付かずの土地で発見される場合もあります。小説やそれに類する文書は石板や保存状態がよければ粗悪な紙に記されているものが出土することもあります。さて、地中深くに埋まっている建造物や土器は年月が経ちすぎて完全な状態で発見されることはまずありません。しかし、そんな不完全な建造物や土器の調査をすると、あることがわかります。それは利便性がとても乏しい造りになっていることです。まるで、実際にその建造物を利用することなく、誰かがその建造物をただ造っただけであるかのように……初めは古代人なのだからそのような造りでも不自然には思いませんでした。しかしながら、その乏しさとは真逆に発見された文書の内容は非常に知的で情緒溢れる描写、優れた秩序と精神が多分にあるのです。我々の訳したかたが間違っている場合もありますが……そのような文字の羅列が数多く発見されたことと、その内容に似つかわしくない建造物を見て疑問に思った私は、研究を繰り返しました。そして私はある確信を持ったのです。それは、この粗悪な紙や石板に記されている文字は我々が考えているような過去のモノではなく未来……或いは別の世界から送られてきたメッセージなのではないか、ということです。』
マキャベリーは本を閉じた。チェルザーレが部屋に入って来たからだ。
「帝国領も悪くはない」
マキャベリーは椅子を少しひいて立ち上がった。
「そう言っていただけると安心します。ルクレツィア様はいかがお過ごしですか?」
「相変わらずふてくされている」
「それは……良い状態なのでしょうか?」
「まずまずといったところだ。それよりもその本をなぜお前が持っている?」
チェルザーレは机に置いてある本を指差した。
「昨晩、貴方様の屋敷を脱出したついでに、盗ってきました。ロドリーゴ枢機卿と聖騎士達があの屋敷にいるのならば、システィーナ宮殿は手薄だと思いましてね。彼等の目を引く為にも小規模な爆発を起こしてみました」
「全く食えん男だ。まぁ、もう私には関係のないことだ……」
「そういえば、例の新聞記者は始末できたそうですよ?」
「それは良かった。あの記者はルクレツィアに張り付いていたからな……我々の今後の計画を知っている可能性があった……それよりも私を帝国四騎士に据えるという話だが、初陣はいつになりそうだ?」
「…貴方様は聖王国から亡命したばかりです。それに竜人族であることが公になってしまいましたので当分先のことかと……」
「公になったからこそ攻めるのではないか?これから、四騎士の1人ミラ・アルヴァレスがトランに向けて攻め込むのだろ?私も四騎士となったのだからそんな小娘ではなく私と変更しても良いではないか?」
「いえ、あれはミラさんでないとダメなのですよ……」
~ハルが異世界召喚されてから13日目~
<フルートベール領>
本日、三國魔法大会が開催されるこの闘技場にはたくさんの人が朝から集まっていた。
闘技場の周りではたくさんの出店が準備していた。
そんな慌ただしくもわくわくする光景の中、各国の代表選手達が引率の先生に連れられてやって来る。
この大会のスポンサーである商国からやって来た男、トルネオは蓄えた口髭を撫でながら選手達を見ていた。
「やはり、似顔絵だけではわからないものだな」
と、トルネオが呟くと、彼の警護を担当しているAランク冒険者パーティーの『竜の騎士』のリーダーのジョナサンが口を開いた。
「どうですか?この前は確か……ダーマ王国の……あぁ、あの2人ですな?」
ジョナサンは浅黒い肌をした白髪の少年と黒髪で三白眼の少年に視線を合わせた。
「確か名前は……」
ジョナサンは魔法大会の運営から手渡されたリストを出して確認する。
「ルベア・ルーグナーとオーウェン・ブレイド……ですか」
「あぁ、2人ともいい顔をしているな……君達は誰が優勝すると思う?」
トルネオは竜の騎士達に訊いた。メンバーの中でも小さい弓を肩にかけている男は答える。
「私はやはり、前回優勝者のレナード・ブラッドベルですかね」
それを聞いてトルネオが言った。
「むぅ……確かに直接見ると中々の力を持っていそうだったな……」
感想を言い終わると、今度は大きな戦斧を肩に担いでいる大男が少し恥ずかしそうに口を開いた。
「私はあの小さな少女が気になります……」
トルネオが笑みを浮かべながら言う。
「なんだ!?君のは少し意味が違うんじゃないか?見かけに依らず少女趣味とは!ガッハッハッ!」
ジョナサンは頭を抱えながら呟く。
「全く仕事中でもそんなこと考えるのはやめてくれよ……ん?あの子もダーマ王国の選手じゃないか」
「む~!今大会は色んな意味でダーマ王国が旋風を巻き起こしそうだな!!ガッハッハッ!!」
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