第216話
~ハルが異世界召喚されてから10日目~
「護衛長コバーンが行方不明のようだ」
チェルザーレは言った。
「そうですか……敵はおそらく最高でも2人で動いているようですね」
「そうだな……」
もし3人以上、もしくはそれ以上の人数でことに当たっていた場合、フェランツァ枢機卿とヴェネディクト枢機卿を守ることができた。敵は同時に3人救うことなどできなかった。
また護衛長のコバーンが行方不明とくれば、その間、監獄にいるメルを1人にすることになる。そんな危険な賭けをこの相手はするだろうか?それはない。こんなにも影に身を潜めて行動しているのだから。
「新聞記者……ソフィア・スシューレン……」
マキャベリーは自分の思考が無意識に言葉として外へ出ているのに気付いていない。その言葉を受けてチェルザーレは返した。
「その新聞記者が敵、2人の内の1人か?」
たくさんの記者が集まっていたロドリーゴ枢機卿の屋敷にただ1人屋敷内に入ったのを目撃されている。その帰り、コバーンがソフィアの護衛として外へ出た。そしてその後、行方不明となったのをチェルザーレとマキャベリーは知っている。
「その可能性はあります。そして護衛長の行方不明には、こちらの動きを全て把握しているというメッセージのようにも思えます」
「なるほど……それなら私が動くとしようか?敵の慎重さは私の力から逃げようとしている節がある。真っ向に私と渡り合えないからこのようなことをしているのだろう?」
「確かにそれも一つの手ですが、寧ろ貴方様をそのように誘っていると捉えることもできます。貴方様が動くところを蜘蛛のように待っている……」
チェルザーレは黙った。マキャベリーは続ける。
「ここは、長期戦を視野にいれましょう。敵の動きを待ちつつ、横槍を入れて邪魔をする。時が経てば経つ程、私のかけた保険は機能するので」
「一昨日に話していたやつだな……わかった。お前を信じよう」
チェルザーレは思い出したかのようにワインを口に含み、続けて口を開く。
「ところで、その横槍とやらはもういれた方が良いのではないか?」
「はい。例の新聞記者が帝国との国境を越えたようですからね。ここは敵の戦力を確認するために同時刻に2つの場所で横槍を入れましょうか」
この時、既にマキャベリーは知っていた。バスティーユ監獄にハルが投獄されていることを。しかし、チェルザーレには敢えてその情報をださなかったようだ。
───────────
馬車に乗り、国境を越えたユリとソフィアは過去の帝国の新聞を読んでいる。
『猟奇的連続殺人事件。遂に解決。』
という見出しだった。犯人が少年の為、似顔絵はなかった。少年は無差別に殺人を繰り返していた。被害者には豪邸に住むものから貧民街のようなところに住まう者等様々だ。被害者には一貫性はないが、殺害現場と遺体にはある共通点があった。それはナイフによる傷跡の多さだ。遺体にはそれぞれたくさんのナイフ痕が刻まれていた。そして殺害現場の床や天井にもその傷は及んでいたという。
「昔、この事件を追っていたことがあったの」
ソフィアは新聞から目をそらさずに言った。
「他国のことなのにどうして?」
ユリが質問をする。ソフィアは相変わらず文字を睨み付けながら答えた。
「初めの犠牲者は聖王国で出たんだと私は睨んでいる。色んな殺人現場を見ていると何か……臭いみたいなものを感じるの。フェランツァ枢機卿の殺害現場はそう、荒らされていたけれども何も臭ってこなかった……遺体を見たわけではないけれど、ただ命を奪ったって感じだと思う……」
そうそれは、聖王国で起きた事件によく似ている。帝国でその事件の犯人の少年が捕まって以来あのような臭いのしない殺人現場を見なくなった。
今思えば、あの少年は海の老人なのではないかとソフィアは考えた。
その時──。
馬車が急に止まった。なんとかバランスをとったが、荷物は慣性の法則により座席から落ちた。
外が騒がしい。
「ヒャーハッハッハ!!」
そんな笑い方の奴が物語以外にいるのかとソフィアは思った。
「聖王国からやって来た屑ども!!帝国へようこそぉぉ!!あのよぉ頼みがあんだけどよぉ?俺達に金と女くんねぇか?」
先程の変な笑い方をしていた男が大きな声で叫んだ。
ソフィア達の他にも帝国を目的地としている者が馬車に同乗している。震えだす乗客達は野盗達の命令により馬車から降りる。
ソフィアも不本意な下車をした。すると野盗の1人が騒ぎだす。
「おおい!!お頭ぁ~!こんなところに上物が!!」
ソフィアはびくりと身体が反応する。野盗達約10名がソフィアに近付く。流石のソフィアも恐怖を感じた。後ろに護衛であるユリもいるが、この人数を相手取るのは些か困難であろう。
ソフィアの背中を野盗が押し倒す。
「や、やめ!!」
うつ伏せで倒れ込むソフィアは拒絶の言葉を発しようとしたのだが、野盗達の声が遠退く。
「え?」
異変を感じたソフィアは声のする方を向くと、野盗達はユリの周りを取り囲んでいた。
「……」
野盗達はソフィアを見もしていない。安堵と恥辱にまみれるソフィアは起き上がって叫んだ。
「お前らは許さん!!絶対に!!」
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