第182話
~ハルが異世界召喚されてから10日目~
金髪を肩まで伸ばし、ローブを着崩している宮廷魔道師のギラバは鋭い眼差しを観客席とリング上で戦っている生徒達に送っている。
──レベル5、レベル8、あれはレベル4
「どなたかお探しかな?」
闘技場の特別観覧席にいる戦士長イズナが声をかけた。ギラバは座して静観している王の横顔を窺いつつ、答えた。
「新入生にレベル13の少年が入学したと聞いてね」
「レベル13……その少年は選考会にはでないのですか?」
さっきから観客席をねめつけていたギラバを見てその少年が観客席にいるとイズナは推測した。
「あまり目立ちたくないのか、それとも臆病なのかわかりませんが、知り合いの魔法学校の先生方にうかがうとその少年は出ないようです」
1年生と3年生の女子生徒同士の試合が終わり、次は前回と前々回大会優勝者のレナード・ブラッドベルの試合だ。
「来ましたね今大会の主役が……それにしても相手の1年生が気の毒だ」
「……」
イズナはギラバの一言に関して否定も肯定もしなかった。
『続きまして第三試合!3年生レナード・ブラッドベル!1年生スコート・フィッツジェラルド!』
アナウンスが聞こえ始めると闘技場は今までで一番の盛り上がりを見せた。
イズナは呟いた。
「……フィッツジェラルド…エドワルドの息子か……まさか魔法学校に入学していたとは……」
エドワルドとレオナルドの息子の戦い、きっとレオナルドもこの一戦を見ていたかっただろうとイズナは思った。
◆ ◆ ◆ ◆
「良いのですかイズナ様!!?」
レオナルドは今この場で戦士長イズナを責めても仕方のないことだと思いつつも、やり場のない怒りを吐き出した。イズナはルナを聖王国へ引き渡す役目をレオナルドに頼んだのだ。
「レオナルド……お前の気持ちはわかる」
イズナは優しく諌めた。
「しかし!」
「ルナ・エクステリア殿は覚悟の上だ。彼女は立派な戦士だ」
「イズナ様は!国王陛下や有力貴族の前で国家が不利になるようなことを言えますか!?確かに素晴らしい魔法の才能を持っている誉れ高い女性ですが、中身はまだ成人して間もない……我々からしてみればまだまだ子供のようなお方ですぞ!!?」
レオナルドはプレッシャーに押し潰されそうなルナが勇気を振り絞り自分がとらわれの身になることで聖王国が帝国に加担しないよう取り計らった場面を思い浮かべた。
イズナはレオナルドの叱責を受け止め、鎮痛の面持ちになる。そしてゆっくりと述べた。
「……我々も彼女の強さを認めての判断だ。それにただただ引き渡しに聖王国へ行く訳ではない。奴等の狙いを探る良い機会でもある。その為にお前にも行ってもらいたいのだ」
レオナルドは煮え切らない表情を浮かべる。イズナは続けた。
「聖王国は単にルナ殿を保護する目的だけでなく、必ず何かを企んでいる筈だ。聖王国に入国する際、もしくはチェルザーレ枢機卿に引き渡す際に武器を取り上げられるかもしれない。不足の事態が起これば頼れるのはお前だけだ」
レオナルドは次第に落ち着きを取り戻す。
「それで私が……」
レオナルドは不足の事態の為の護衛であり、聖王国の企てがわかれば、馬よりも早く走れる脚で王国に情報をもたらすことができる。
「しかし、ルナ殿を引き渡してしまったら探る時間などないものと思われますが」
「聖王国の書簡には聖女ルナと、あと1人だけその世話係の侍女の同行を許可すると記されていた……戦争での戦力が削れてしまうが、最強の侍女を用意しようと考えている」
◆ ◆ ◆ ◆
レオナルドは馬に乗り帝国との戦場予定地であるプライド平原から王都へ続く街道の途中にある街に着いた。この街で王都の正規軍を護衛に引き連れたルナと落ち合う予定となっている。
街の人々が何やら騒がしくなる。この時、最初に行動するのが子供達だ。子供達の大きな声で街の女達が反応し、騒動へと発展する。レオナルドは騒動の渦中へと馬を進めた。
まるで行軍のように荘厳な雰囲気でルナとその護衛達は街に現れた。野次馬を押し退け行軍を阻むようにレオナルドは立ち止まり、馬から降りた。
「戦士長イズナより命を受けたレオナルド・ブラッドベルです。ルナ・エクステリア様を安全に送り届けるよう言い聞かされております」
ひざまずき挨拶をするレオナルドは、チラとルナの顔を見た。思ったよりも落ち着いている。
「こちらこそ宜しくお願いします」
レオナルドが声を発したときは静かだった野次馬がまたもざわつき始める。野次馬をかけ分けるようにしてこちらへ来る者がいる。
「そうだ……忘れていた……」
「ちょっとぉぉ!!レオナルド様~!酷いじゃないっすか~!!あーしを置いて行くなんて!!」
レオナルドの所属する戦士団の三番手であるエリンが鎧ではなく着なれないメイド服を着てやって来た。王都の正規軍は奇異な眼でエリンを見ていた。そしてルナが口を開く
「私と伴に聖王国へ行く侍女さんって……」
「はーい!あーしのことでーす!宜しくねルナっち!」
エリンは手を挙げながら元気よく答えた。
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