第147話
屋上の解放された空間を覆い尽くす晴れた空。それを遮るようなビルは1つもない。母と喧嘩してどんよりとしていたナツキの心を青い空は浄化していく。太陽が少し傾き、学校は1日の行程を終え、生徒達は下校する。それと同時に部活動も始まった。
学校の屋上へ来たのは一度だけ、1年生の時に校内を見学した際に訪れたきりだ。普段は鍵がかけられており、生徒の出入りは禁止されていたのだが、今は何故だか開いていた。少ししてから草薙ミライが屋上へやって来る。
「あなた!どういうつもり?」
いつも優しく上品な声で授業中先生からの問いに答えるミライの声ではなかった。声質と表情からナツキを糾弾しているのがわかった。しかし、ナツキにはその理由がわからなかった。
「どういうつもりって……なにが?」
あっけらかんとした言い様はミライを刺激したようだ。
「これよ!!」
ミライは昨日ナツキが拾った魔法少女のステッキを掲げる。
「あっ!それ……草薙さんのだったの?」
「そうよ」
──え?真面目で清楚な草薙さんがそんなものを?趣味?
コスプレ姿の草薙ミライがステッキを持ち決めポーズをしている映像をナツキは思い浮かべた。
「……ごめんなさい。それ、ただ拾っただけなの……みんなには内緒にしておくから……」
「何を言っているの?それよりも貴方はどちら側なの?場合によってはここで始末するわ」
──え?始末?何この子、魔法少女ガチ勢?推しメン被ったらキレる的な?
「……どちら側って……何?」
「惚けないで、私見たんだから、貴方がこのステッキを使って魔法を唱えているのを」
──魔法を唱える?……あれかぁぁぁぁ!!!
ナツキの顔が紅く染まる。
「あ…あれは」
「ほらみなさい!言い逃れできないわ」
ミライは腕を組んでどこか得意気だった。
「あれは、そういうふりをしてみただけで……その…小さいとき私もそんな玩具持ってたから……」
「往生際が悪い!」
ミライの持っているステッキが光だした。ステッキから風の刃が無数に飛び出し上空へ舞い上がる。その衝撃でナツキは飛ばされそうになった。必死にその場に踏みとどまる。制服が激しく波打っている。
「ぅ……それ…本物?」
ミライの瞳孔が開く。
「…それ本気で言っているの?」
「え?そうだけど…」
「でも昨日魔法唱えてたじゃない」
「あれってたまたま私がステッキを振った先のビルが地震のせいで崩れただけなんだと思ってた……」
ミライは下を向いてため息をついた。少ししてから屋上の入り口へナツキを無視して帰ろうとする。
「いやむりむりむりむりむり!!」
ナツキはミライの腕を掴んで静止させる。
「あなたには関係ないわ」
「いやだから無理だって!」
「あなたを巻き込みたくないの」
「今、草薙さんのせいで巻き込まれたんだよ!」
ぐっと自分のしたことを悔やんだミライはナツキを見やる。
「わかった。私がバカだった。それにもう遅いわね…今日の荷物検査おかしいと思わなかった?」
「まぁそう言われれば確かに……」
「あれはこのステッキを探していたのよ。あなたが昨日魔法を唱えていたのを見ていた人物が私以外にもいたようね」
「じゃあ先生は悪者なの?そんなベタな。既にそのネタは第1章で使う手法──」
「わからないわ、先生が操られていたのかもしれない」
ゴゴゴゴゴ
地震だ。二人はバランスを崩す。ナツキはミライの身のこなしを見て、運動神経の良さを予感する。
「とにかく時間もなさそうね。貴方には魔法の才能があるわ。とりあえず、ついてきて」
ナツキは才能があると言われ内心喜んだ。そしてミライの唱えた風の魔法はもうおさまっているはずなのに再び頬を撫でるような風を感じた。
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