第41話

~ハルが異世界召喚されてから3日目~


 ボサボサの黒髪で目付きは悪い(自分ではそこまで悪くないと思ってる)負けず嫌いな俺の名前はスコート・フィッツジェラルド。


 王立魔法高等学校のAクラスに入学した。そして現在、その入学式の最中だ。これから展開される学校生活を夢想する。これは単なる夢ではない。計画だ。


 アマデウス校長の挨拶始まった。


 フン、いずれアンタを越えてやる…おっと、思わず睨み付けてしまった。強い奴を見るとつい敵対したくなる……


 そして次に生徒代表の挨拶、レイ・ブラッドベルが壇上へと上がった。


 コイツが俺のライバル。フフフフフフ、こうしてお前と同じクラスになれたんだ。直接俺がぶっ飛ばしてやるぜ!フッフッフッ……


 その時、俺の脳天に衝撃が走る。隣にいるゼルダに頭をグーで殴られたようだ。


「ちょっと何笑ってんの?気持ち悪いんだけど?」


 セミロングの赤茶けた髪に落ち着いた目付きは同い年にもかかわらず彼女を年上のように感じてしまう。


 ゼルダ・セイルラー。


 彼女は俺がいないとダメなのさ、なんせ彼女の護衛として俺はこのクラスに入ったのだから……


 ゼルダはスコートよりも地位の高い貴族だ。俺は騎士爵。貴族の階級でいうなら、まぁ奴隷みたいなものさ。


 しかしゼルダは子供の頃から分け隔てなく接してくれる素晴らしい女性だった。


 いつしか彼女を守ると俺は心に決めた。え?騎士なのになんで魔法やってんのかって?ゼルダが魔法の才能があってこの魔法学校に入りたいって言ったからだよ。彼女は俺が守らなきゃダメだろ?だから俺も魔法の練習をしたってわけだ。


 この歳で魔法も使えるし剣技も使える。こんな有望な奴はいないと、言われたものだ。アイツを認識するまでは、俺のライバル…レイ・ブラッドベル……


<訓練場>


 学校のオリエンテーションが一通り終わると、Aクラス担任のスタンがAクラス生徒の実力を見たいと言って、一堂が訓練場に集合する。


 ──フフフ


「あれが的だ!試験の時使ったよな?これを自分の持てる最高の力でぶつけてほしい」


 Aクラスの者達が順番に各々魔法を行使する。


 ゼルダが唱えた。


「ウィンドカッター」


 緑色に光る魔法陣の中心から風の刃が放出され、的に当たる。ゼルダの綺麗な赤茶けた髪が靡く。


 ──美しい、ゼルダ、やはり君は最高だ。


 次はスコートの番だ。


「シューティングアロー」


 白く輝く魔法陣から光の矢が飛び出し、的にあたった。


 ──フン!こんなもんさベイビー


 自分の魔法の出来を見て満足したスコートは髪をかき上げながらどや顔をする。もしかしたら声に出ていたかもしれない。


 次はレイの番だ。

 

「シューティングアロー」


 一筋の光が瞬きの間に的を捕らえ爆発する。的から煙がでている。


 ──うっ


「すっげぇ~」

「流石…」


 Aクラスの者たちがレイの魔法に感嘆の声をあげる。


 ──フン、流石は俺のライバル…こうでなきゃ面白くない……


「次、ハル・ミナミノ」


 スタンが最後の生徒の名前を呼んだ。


 ──どうやったら俺はアイツに勝てるんだ……


 スコートはレイの魔法について考察している。レイとゼルダ以外の生徒に興味がないようだ。


 スコートがレイに勝つ姿を想像していると、


「フレイム」


 よく耳にする魔法が聞こえた。唱えられたらどんなに良いか、得意の夢想の中でスコートがよく唱えている魔法だ。


 その魔法名を他人の声で聞くと違和感を覚える。しかしそれは現実に起こっていた。


 スコートは顔の表面にチリチリと熱を感じると、詠唱した平民出の生徒を見る。


 業火の炎が生徒の掌から迸る。的が消滅し、鉄の箱だけになった。


「なっ!?」


「ハル?…」

「ハル君?…」


「「凄い!!」」


 女子生徒二人が庶民の元に駆け寄る。


 そんな中、スコートのライバルであるレイは歓喜を滲ませている表情をしている。


「今の第二階級魔法だよな?」

「すっげぇ~」


 他の生徒達は戸惑いと賞賛の言葉を漏らしていた。


 そしてスコートは、


「コイツ…庶民だよな?」


 自分は騎士爵だがそれなりのプライドは持っていた。もしかしたらいつも他の貴族達から偏見の目で見られているせいで、スコートも庶民に対してそんな目で見ていたのかもしれない。


「ハル…この魔法、いつ使えるようになった?」


 担任のスタンが質問する。


「ん~1週間くらい前ですかね?」


「…そうか…今お前レベルいくつだ?」


「えっと12です」


 ハルのレベルを聞いた生徒達は、


「12!?」

「嘘だろ?」


 信じられないと言った声が聞こえた。スコートも無意識に声を漏らしていた。


「おいおいそれは……」


 ──嘘だ!何かの間違いだ……いや…コイツは魔法が凄いだけだ、一対一の戦いなら俺の方が強い!


 スコートが現実逃避をしていると、スタンが言った。


「そうか…嘘じゃないんだな?」


「はい」


「…よし!お前らハルを見習って魔法に励めよ!」


 ──俺はこんな奴認めんぞ!?


~ハルが異世界召喚されてから4日目~


 襲撃は今回もなかった。平常どうりAクラスはダンジョン講座の授業をした。


 そしてその放課後、


「まって!クロス遺跡ってことは泊まり込みじゃないですか!」


「そうだ!三泊四日だ!」


「そんな!急です!着替えとか用意しなきゃ…」


 女子生徒達がざわざわしている。


「昨日説明したろ?Aクラスは恒例でレベルアップ演習の時に王都からでるって?」


「出るとしか聞いてません!」


「そうだっけ?」


 スタンは頭をかいた。


─────────────────────


「突然すぎるよね?」


 ゼルダがアレックスに声をかける。


「本当にそう!」


 アレックスはいつもの調子で答えた。


「ねぇ?これから皆で買い物行かない?明日から寝食を共にするんだし」


 ゼルダが砕けた言葉で誘った。


「行こう!ね!?マリアも行くでしょ?」

 

 アレックスはその提案を受け取ると、すぐに了承の返事をして友達のマリアを誘った。


「うん!」


 マリアの快い返事を聞くと、アレックスは他の女子生徒にも声をかける。


「クライネもリコスも行こう?」


 クライネは声をかけられて驚いていた。


「ぇ!?…行きます……」


 控え目な返事をするクライネ。


「リコスは?」


 アレックスは、三編みの丸い大きな眼鏡を掛けている女子生徒リコスに、もう一度尋ねた。


「ぅ…うん。行く…でも大丈夫?」


「何が?」


「私が一緒に行っても……」


「大丈夫に決まってるじゃない?」


 Aクラスに平民はハルと、このリコスだけだ。リコスはいつも大きな本を持っている如何にもオタク気質な女の子だ。


 マリアはレイを探したが、もう教室から姿を消していた。残念そうな表情を浮かべている。


「ハルも…行く?」


 アレックスは他の女子生徒を誘う時よりも緊張しながら尋ねた。


「どこに?」


「これから明日の準備に着替えとか、防具とか買いに行くんだけど?あと水着も」


「行く!」


 ハルの返事を聞いて、アレックスの表情が急に明るくなった。


 ゼルダも男子生徒のスコートを誘う。


 アレックスは他の男子2名。


 デイビッドとアレンに声をかけ、レイを除いたAクラスの全員が参加することになった。


─────────────────────


<武器防具店>


 短剣から大剣、槍、パルチザン、トライデント、ハルバート、杖、籠手、フルプレート、盾


 ──中二病満載の場所だな


 ハルはそう思いつつ内心テンション上がっていたのはここだけの話だ。


 皆が其々の防具を見ている中、ハルは何となく壁に飾られている長剣を手に持った。


 白銀に輝く刀身は鏡のようにハルをうつす。


 ──このくらいの武器がほしいかも、ゴブリンジェネラルの大剣はデカ過ぎるからなぁ。


「なんだお前?ロングソードがほしいのか?」


 ハルは刀身の角度を変えて、声のする方を映した。刀身には黒髪のボサボサ頭に目付きの悪いスコートがいた。


 ──あぁこの人、訓練場で魔法を的に当てた後、こんなもんさベイビーって言ってた人だ。


 ハルはちびま○子ちゃんに出てくるキャラクターかよ!ってその時ツッコンだのを思い出した。


「…うん。ほしいかも」


「フン。俺は騎士出身だからな?俺の勝ちだな?」


「…ぁ、ぅん。そうだね?」


 ──何言ってんだこの人?


 ハルはロングソードを手に持ち、今度は防具を見に行く。


 何故だか後からスコートがついてくる。


 ──なんでついてくるんだ……


 その時、店内から、


「やめてください!」

「やめてって言ってるでしょ?」


 マリアの拒絶する声と、ゼルダの落ち着いた声が聞こえてくる。


「なんだよ?一緒に選んでやるって言ってんじゃん?」

「なぁ?」

「グッフフ」


 マリア、アレックス、ゼルダ、クライネ、リコスが柄の悪い冒険者3人に絡まれていた。


 ハルは思う。


 ──この世界は本当に治安が悪いな……

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