第39話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
「ゴブリンメイジは任せるにゃ!にゃーはゴブリンジェネラルを殺るにゃ!だけどゴブリンメイジを倒したら早くこっちに助太刀してほしいにゃ!にゃーはあくまで探知専門で戦闘タイプじゃないにゃ!!」
フェレスはゴブリンジェネラルを倒すことは考えていなかった。ハルが来るまで攻撃を避け続ける作戦を実行する。
ゴブリンジェネラルはその身の丈と同程度の長さのある大剣を振り払った。フェレスは着ている服を掠めるようにしてそれを躱す。ゴブリンジェネラルの大剣は空を斬るが、それに伴って激しい風を引き起こした。
フェレスは後方へ飛ばされる。
──あ、当たったら死ぬにゃ……
距離を詰められる前にフェレスはアイテムボックスから短刀を取り出し、ゴブリンジェネラルに向かって投げた。
着込んでいる鎧の間接に突き刺さるもダメージはさほどない。
ゴブリンジェネラルは短刀が刺さったまま前進する。フェレスの脳天を叩たっ斬るように大剣を振り下ろした。
──さっきよりも早い!?
フェレスは半身となって間一髪、避けることができたが、振り抜かれた大剣はそのまま大地を割り、先程とどうように突風を巻き起こす。
フェレスはその風から身を守るようにしてまたも後方へ飛ばされた。
──いちいち飛ばされるにゃ…だったら……
今度はフェレスから間合いを詰めた。ゴブリンジェネラルが大剣を振るう前に足に蹴りを入れた。鎧の上からなのでダメージを与える為ではない。バランスを崩させることを狙って蹴った。
──硬っ!!でも……
ゴブリンジェネラルの動きが一瞬鈍った。
「思った通りにゃ」
自身の体重と鎧、大剣の重みを支える足元が弱点であることが判明した。フェレスはゴブリンジェネラルに大剣を振るわれる前に、足を攻めて時間を稼ごうとした。
フェレスの素早い動きに翻弄されるゴブリンジェネラル。足元に攻撃が集中し、やがてガクリと膝を折った。
この様子を見たフェレスは自分よりも格上であるゴブリンジェネラルを倒せるのではないかと思った。本来の目的は時間を稼ぐ為だったのに、倒せる可能性があるとわかると攻撃を入れてしまう。これは永年冒険者をしているフェレスならではのジレンマだ。
ゴブリンジェネラルは迫りくるフェレスに向けて膝をついたまま大剣を振り下ろしたが、両足を地面につけていた時よりも威力は低い。フェレスは当然のようにして躱す。
そして、アイテムボックスから短剣を取り出し、兜の奥から怪しく光るゴブリンジェネラルの眼を狙って突き刺す。
同時に、背後からハルの唱えたフレイムがゴブリンジェネラルの背後を攻撃した。
「もらった!!」
油断をしていなかったと言えば嘘になる。勝ちを確信したとき程、油断が生じる。ゴブリンジェネラルは兜の奥の両眼をニヤリと歪ませ、見計らったかのようにスクッと立ち上がった。突進してくるフェレスの胸に大剣を突き立てる。
「うそ……」
─────────────────────
大剣に胸を貫かれ、力なく垂れ下がった肢体。胸から溢れ出る赤い血は腕を伝い、指先に流れ、一定のリズムで大地の乾きを潤す。
ハルは串刺しにされたフェレスを見て冒険者の仕事が命懸けであることを再確認した。
先程のフレイムがあまり効いていないことを鑑みると、
──かなりピンチじゃね?
第四階級はおろか、第二階級すら今のMPだと唱えられない。
ゴブリンジェネラルは大剣振り回し、串刺しになったフェレスを振り払う。ドサッと肉の塊は音を立てて地に落ちた。
ゴブリンジェネラルはハルに向かって大剣を振りかぶる。
ハルはそれが振り下ろされる前に手をかざして唱えた。
「ウィンドカッター!」
風の刃はゴブリンジェネラルの鎧にぶつかるとカンと音を立てて消失した。
──え?魔法効かない的な?
振り下ろされた大剣をハルは後方へ飛び退いて躱す。ハルは残り少ない魔力を込めた拳で渾身の一撃をゴブリンジェネラルの腹に食らわせた。
ゴブリンジェネラルは腰を折り、呻き声をあげて膝をつく。
「追い討ちを……」
ハルはもう一度魔力を込めようとするが、
MP 3/124
──やば……
今度はハルも膝をつく。
──ぁ~…意識が、遠退く……
ゴブリンジェネラルはゆっくりと立ち上がり、自分の足音を確かめるようにしてハルに近づく。
──緊急脱出用の…魔法を……
ゴブリンジェネラルの足音が止まった。ハルが膝をついているところまでやって来たのだ。
──なんだっけ…何属性を…唱えれば……
ハルは巨大なゴブリンジェネラルを下から見上げる。ゴブリンジェネラルは大剣を振りかぶり、それを一気に振り下ろそうとしているところだった。
──死んだ……
ハルが死を確信したその時、ゴブリンジェネラルの身体は引き裂かれる。鋭い爪は背部から体内に入り、それを外側に拡げるようにして身体を二分する。まるでゴブリンジェネラルの体内から現れたかのようにフェレスが姿を見せる。
「危なかったにゃー?」
血飛沫と肉片が雨のように降るなか、いつもの悪戯好きなフェレスの顔が不気味差を更に際立たせていた。
「ぇ……」
ハルはフェレスが生きていることに驚いた。そして、お腹に風穴が空き、力なく倒れているフェレスの死体を見やる。
「…あれは?」
「あれはにゃーが造った偽物にゃ?にゃーは死んだふりが得意にゃ~!皆騙されてるにゃ?それに……」
フェレスは膝をついているハルの眼前まで顔を近付けて言った。
「良いことを教えるにゃ?君がやってる魔力を込めて攻撃力や素早さを上げるあの技は一種の錬成にゃ?」
フェレスは眼をそらさない。
「錬…成…?」
ハルはまるで瞬きを禁じられてるかのように眼を見開く。フェレスの縦に長い瞳が伸縮する。
「そう!君は魔力を込めてるつもりかもしれにゃいが、実は筋肉を錬成して強化してるにゃ?にゃーのあれも君のやってることと大体一緒にゃ?」
フェレスはハルの眼を見ながら自分の人形を指差す。ハルは眼をそらすチャンスだと思い人形を見たが、フェレスが詰め寄る。
「しかしおかしいにゃ~?本来にゃーのように永年生きて、研究しているからこそ人体の仕組みや構造を理解できて、実戦できるのに、君はどうしてそれが出来るのかにゃ?」
「人体の…仕組み?」
ハルはフェレスの威圧に恐怖していた。あの紫色のドレスを着た女以来の恐怖だった。
ピコン
頭から機械音が聞こえる。女性なのか男性なのかわからない声が言う。
『キーワードを知覚・認識した為、解読が行われます。解読には10分程かかります。』
聞きなれない内容だった。
「まぁ…いずれ解ることにゃ?それよりも!」
フェレスはハルから離れ、ゴブリンジェネラルが持っていた大剣を拾い、ハルに渡す。
「これは中々貴重な代物にゃ?君にあげるにゃ?」
手に取ると今のボロボロのハルにはその大剣は重すぎた。
「アイテムボックスにはしまわにゃいのか?」
ハルは思い出したかのようにアイテムボックスにしまった。
そしてゆっくりと立ち上がり、焼け残ったゴブリンメイジの杖とローブも回収した。
──さっきの声はなんだったのだろう……
ピコン
新しいスキル『恐怖耐性(強)』を習得しました。スキル『恐怖耐性(中)』は『恐怖耐性(強)』に統合されます。
──え?やっぱりこのフェレスって獣人は…あの女の人と同等の……
ピコン
解読が完了しました。スキル『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』=『人体の仕組み』を習得しました。
ピコン
スキル『人体の仕組み』を習得したことで無属性魔法『錬成Ⅱ』を習得しました。『錬成』は)錬成Ⅱ』に統合されました。
ゴーン ゴーン
路地裏へと戻った。
HP、MP、SP、筋力、耐久力、魔力、抵抗力、敏捷、洞察が2上がった。
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 12
【HP】 123/123
【MP】 126/126
【SP】 151/151
【筋 力】 88
【耐久力】 109
【魔 力】 116
【抵抗力】 104
【敏 捷】 101
【洞 察】 105
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 2550/2600
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『人体の仕組み』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『自然の摂理』『感性の言語化』『アイテムボックス』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『槍技・三連突き』『恐怖耐性(強)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』『受け流し』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第二階級火属性魔法
ファイアーエンブレム
第四階級火属性魔法
ヴァーンストライク
ヴァーンプロテクト
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
第一階級闇属性魔法
ブラインド
無属性魔法
錬成Ⅱ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます