第60話 道中


『マスター、あの方の装備はかなり改良と年季が入っております』


 ヤポンスキーの装備を確認したナビィがミオンに告げる。


『それにナイフベルトに差してるのは全部ワプスナイフです』

「ワプスナイフ?」


 ナビィがヤポンスキーが装備しているナイフの名称を伝えると、聞き覚えのないミオンはうっかり声に出して聞き返してしまう。


「おや、随分と目端がききますね。おっしゃる通り、ベルトにあるのはワプス。腰にあるのはダガーです」


 ミオンの呟きが聞こえたヤポンスキーは自分に問われたと思ったのか、腰にぶら下げていたダガーナイフを鞘に入れたままミオンに見せる。


「ターカー先輩、ワプスナイフって何ですか?」

「確かグリップ部分にガス缶が仕込んでいて、刺した相手の体内にガスを注入して破裂させる武器だったかな?」


 話を聞いていたリディがターカーにワプスナイフがどんなものか質問する。

 ターカーは思い出しながらワプスナイフの性能を説明する。


「……っていうか、ヤポンスキーさんてビジネスマンさんですよね~? 何でそんな装備持ってるんですかぁ~?」

「いや、商会が小さい頃は私自身トラックなど運転して行商して現場に出てましてねえ。雪賊やミュータントと戦う時に使ってたんですよ。久々に出したんですが、体格変わってなくてよかったですよ」


 アリスが人差し指を自分の顎に当てて上目がちにヤポンスキーにそんな装備を持っているか質問する。

 ヤポンスキーは恥ずかしそうに昔は現場で輸送に出ることもあり、その時の装備だと説明する。

『五分後に出発する。各車両エンジンを起動せよっ!』

「おっと、出発するようですね。皆様暫くの間よろしくお願いします」


 そんな風に雑談していると無線で出発の合図が告知され、各車両がエンジンを駆動し始める。


「うわっ!?」

「あ、ミオンはホバー車自体初めてだったか」


 輸送用のホバー型トレーラーがエンジンを駆動させると周囲の雪を吹き飛ばす。

 その光景を始めてみるミオンは思わず声を上げ、ターカーが笑う。


「そういえば、この手の護衛輸送で気を付けることって何です?」

「ん? 雪賊やミュータントの襲撃かな。でも今回はそんなに気張らなくてもいいかもな」


 ミオンは話題を変えるために護衛依頼で気を付けることを質問する。

 ターカーは今回に限って気張らなくてもいいと伝えてくる。


「え? 何でですか?」

「今回はある意味突発的だし、輸送ルートにかすりもしないルートだからな」

「そうですね、雪賊などは馬鹿ではありません。何もない大雪原のど真ん中でいつ来るかわからない輸送隊など待っていたりはしません」


 ターカーとヤポンスキーが雪賊の行動パターンを説明する。

 

「輸送ルートというのはある程度固定してしまうので、雪賊は大抵輸送ルートに重なるエリアに生息し、巡回したり都市にスパイを送り込んで輸送隊の情報を探ります」

「え? それなら輸送ルートを新しく作ればいいんじゃ?」


 ヤポンスキーが輸送ルートはあっる程度固定されるというとミオンは新しいルートを作ればと簡単に言う。


「世の中そうは上手くいかないんだよな、これが。輸送ルートが固定されるのは色々理由がある。一つはルート上や近辺ににミュータントの大型コロニーがない事、地盤がしっかりしていて荷物満載のトレーラーが走っても足を取られない、地滑りなどが起きないって事、最後に距離だな、どんなに安全だとは言え距離が長いと輸送コストは上がる」

「ミオン君は~、一回遺跡に落ちて遭難しかけたでしょ~? 下手なルート選ぶと雪の下が空洞で車両の重さや、ああいったホバー車の噴射でぽっかり穴が空いて落ちたりするのよ」


 ターカーとアリスがルート選択の重要さを説明しながら車両は最初の目的地であるヴァルプルギス・ナイト・マーケットの農業コロニーへと向かって行った。

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