第59話 出発


「搬入作業終えました!」

「装備点検及び、点呼終了ですっ!!」


 ゴールデン・バッグの車庫は蜂の巣を突いたように慌ただしく人が出入りしている。

 これまでも護衛や輸送の仕事は経験してきたが、今回は十大企業入りの噂もある大手のヴァルプルギス・ナイト・マーケットが相手とあって、念には念をと厳重なチェックをしている。


 雪上車に武装した護衛チームが次々と搭乗していき、出発していく。


「ミオン、準備はいいか?」

「はい、大丈夫です」


 ミオンはターカーと一緒に、ゴールデン・バッグが所有する雪国迷彩塗装がされた重装甲の雪上車に搭乗する。

 車内後部座席は対面型になっており、スライド型のピストルポートが設置されている。


「ミオン、呼んでくれてありがとう」

「ミオンさん、ありがとうございます」


 車内にはリディとイザベラも搭乗しており、ミオンに挨拶をする。


「やっほ~、ミオンちゃんおひさ~、私の事覚えてる~?」

「ええっと……」

『ゴールデン・バックに保護された時のトレーラーにいた方です』


 車内にはリディとイザベラ意外にも護衛担当のメンバーがおり、褐色肌に金髪ショートカットのギャル風の女性が両手を振りながらミオンに声をかけてくる。


 声をかけてきたギャル風の女性を見てミオンは何処で出会ったか思い出そうとしていると、ナビィがフォローして目の前の女性と何処で出会ったか教える。


「あ、はい……助けてもらった時にいた人ですよね?」

「ちゃんと思い出してくれて偉いぞ~。自己紹介がまだだったね、アリスって呼んでね」


 アリスと名乗ったギャル風の女性は装甲を張り付けた防寒具にライフルを傍に置いてある。


「何? ミオン君はライフルに興味あるの?」

「えっと……野外戦用に武器を探していて……」


 ミオンがライフルに視線を向けていることに気づいたアリスは銃を見せつけながら声をかける。


「なんでまた野外戦用なんて探しているんだ?」

「最近ギルド主催の講義に参加していまして、講師の一人に野外用の武器を持てば仕事の幅が増えると言われて」


 ターカーが話に加わると、ミオンは必要になった理由を述べる。

 護衛依頼が始まるまでの間ミオンはギルド主催の講義を幾つか受けていた。


(確かに何らかの事故などで私と離れた時の為に技術や知識を学ぶのは納得できますが……)


 ミオンがギルドの講義を受ける時ナビは自分がいれば必要ないと抗議したが、ミオンは今までの出来事からナビィと離れ離れになると何もできないことに思うことがあったのか、合流できるまでの間の生存率を上げるためと言われて、ナビィも渋々納得した。


「ミオンの武器ってショットガンとハンドガンのみだったか? 遺跡とか閉所、室内戦ならそれでもいいかもしれないが、確かに野外戦用の武器があればミュータント狩りや歩哨任務もこなせるな」

「それならライフルが一番ね。アリスが使っているフィールドウィングはパーツ数も少ないから整備も楽だし、オプションパーツも豊富で状況に合わせてパーツの組み換えすれば大抵対応できるよ」


 ミオンが武器を探しているというとアリスは自分のライフル銃を持ち出して、ライフルの良さを説明する。


「盛り上がっている所、失礼しますよ」


 アリスがライフルの良さを語っていると後部ハッチが開き、新たな搭乗者が現れる。


「えーっと……寒く……ないんですか?」

「ええ、こう見えて高性能の防寒具なので」


 新たにやってきたのはヤポンスキー。ダイビングスーツのような体にフィットした薄着のボディスーツに×の字に交差するナイフベルトのみという、この世界の住人からすれば凍死したいのかと思われるほどの薄着姿だった。


 武装もナイフベルトに無数に挿してるナイフのみでハンドガンの一つも携帯していなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る