第27話 雪豹になる理由
「確かに……あまり飲みたいと思える味じゃないですね……」
「だろ?」
ミオンは物は試しにとチューブを試食してみる。
ストローを通って流動食が口の中に広がっていくが、味と色合いからしてターカーが言った言葉の通りだと思った。
「それでもこいつは凍結しねえし、野外でも摂取は出来る。後は味さえ何とかしてくれたらもっと人気出るのになあ」
ターカーはチューブが不人気ではあるが利便性があるのである程度売れている理由を述べる。
「そういえば、僕より先に雪豹になった孤児院の先輩が言ってましたけど、非常食を凍結させて駄目にすることってあるんです?」
ミオンは口直しに飲料水で口を濯ぐように飲んで、チューブの味を消すと、以前聞いた話を思い出し、ターカーに聞いてみる。
「あー……あたしもまた聞きだけど話は聞いたことあるね。チューブの味を嫌ってノーマルの非常食買い込んだら防寒対策がちゃんとなってなかったのか、凍結して解凍に苦労したとか、全部だめになったとか」
ターカーも聞いたことがあると言って思い出すように語る。
「この手の話はよく聞くけど、チューブを製造販売している企業がチューブの売り上げを上げるために流したデマだなんて噂もあったねえ」
ターカーはインスタントのコーヒーをすすりながら件の噂話が企業がでっち上げたデマというパターンもあると付け加える。
「ミオンって……孤児院出身なの?」
「そうだよ。気が付いたら孤児院で育って、ついこの間15になったからって追い出された。どこにでもあるありふれた話だよ」
イザベラがミオンに質問すると、ミオンはあっけらかんに答える。
「僕がいた所はまだましな方だったよ。酷いとこなら保護した子供を農奴や娼婦に売ったり、孤児院が盗みを指示したりとかしてたらしいし」
「あー……その酷い孤児院から脱走して雪豹になった元孤児が院長に復讐して明るみになった事件があったね?」
ミオンが自分がいた所は最悪よりはマシだったというと、ターカーは昔起きた孤児院絡みの事件を思い出して口にする。
「ねえ、ミオンは何で雪豹になったの?」
「変なこと聞くね? それ以外に手段がなかった……ただそれだけだよ」
リディがふとミオンが雪豹になった理由を聞く。ミオンは何当たり前のことを聞いているんだと思った。
「怖くはなかったの?」
「怖くてもそれ以外にできることがなかった。僕は孤児だよ? 頼れるコネも知識も技術も社会信用も何もない。雪豹になるか、犯罪に手を染めるか……僕は雪豹を選んだだけ。君たちは違うの?」
孤児院を卒院して雪豹になる。それは孤児院にいる親のいない孤児なら、誰でも一度は考えることだった。
実際に雪豹になるのは一握り。大半はシティが募集する開拓民になって壁のない開拓村で農奴になるか、犯罪者になるか、スラムに落ちて殺されるか餓死するか。
ビックになって必ず迎えに来ると孤児院の親しい相手にそう言い残し、雪豹になっていった孤児たちのほとんどが二度と戻ってくることはなかった。時折戻ってくる人もいたが、大抵半年もたてば音信不通になることが多い。
それでも、藁にも縋る想いで卒院して雪豹になる子供達は後を絶たない。それ以外に生きる方法がないからだ。
そしてやはり誰一人として帰ってこない。死んだのか、大成してひもじい思いをした孤児院時代を忘れたのか消し去ったのか……どこの孤児院でもよくある風物詩であった。
そんな風物詩にミオンも従って雪豹になることを決心し、そして今日まで生き延びていた。
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