第13話 懐かしい人

中に通され、お茶を勧められる。

カップの縁は欠けてるし、お茶からは異様な臭いがする。

しかし、クロゥさんはそんな事は意図もせず、

カップを口に運ぶ。

ここは異世界。

それが普通なのかもしれない。

そう悟り、私もカップを手に取った。


まじい………。

まずいどころなんかじゃないな。

これは漢方薬レベルだ。

そう、ドクダミ茶のように。


「すまないな。

茶など出すような客など無かったから、

俺の愛飲している薬茶しかなくて。」


「いや、反ってありがたい。」


やっぱり薬かい!


「さて、女神についてだったな。

俺は今まで女神について、古い文献や情報で調べていた。

その伝手で、最近女神が代替わりしたとの情報は得ている。」


「代替わりか。

あなたは女神信奉者か?」


そう言う訳では無いと、おじいさんは首を振る。


「だが、女神の存在は信じる。

女神は今から1200年ほど前には存在していた。

それ以前の資料は手に入らなかったからな。

一体いつからいるのかは分からない。」


「その女神はなぜここに現れるのですか。

その存在意味は何でしょう。」


「そんなに急ぐな。

俺の知る限りの事を順を追って話すから。」


「…はい。」


「女神とはこちらに突然現れる、

この世界で異世界と呼ばれる所から来る女性を指す。

そして何らかの能力を持っている。

目に見え、実際に使える特殊能力。

まあこちらで言う魔法と言う奴か。」


「やっぱり能力者か。

それなら女神と呼ばれても、何の能力も持たなかった人は?

偽物だったのですか?」


「違うな。

本人は自分に何の力も無いと思っていたようだが、

何かしらの能力は有ったんだ。

例えばそこに存在するだけで色々な事に干渉できる力を。」


「なるほど、豊穣の女神や、貧乏神的なものね。」


「貧乏神ってお前………。

まあそれも神か。」


おじいさんはクックッと笑っている。


「それではやはり、女神とは欠かさずこの世にいるのですね。」


「あぁ、女神が死ねば新たな女神はが召喚される。

それを言っているのが誰かは分からない。

言い伝えでは、こちらの世界の不死なる男神が女神を呼び寄せると言う説が有る。

女神が死んだことを嘆き、寂しくて新たなる女神をこちらに召還すると。」


「そんな奴は最低な神ですね。

こっちの迷惑も考えてみろだわ。」


「そう言うな。実際は違うだろうから。」


そう言いながら目を細める。

そう言えば、何となくこのおじいさんとは会ったような気がする。

よく見れば、面影が誰かに似ている。


「なぜ女神がこの世に現れるのかはまだ不明だ。」


「大体にして、なぜ女神が代替わりのように、絶えずこの世界に出現するの?

それに一体どんな意味が有るのか。

それが分からないわ。」


「やはり、この世界が女神を必要としているからなんだろう。

何かしら役に立てるよう仕立てている様だからな。」


「仕立てる?」


「だってそうだろう?

あちらでは普通の女だったのが、こちらに渡れば何かしらの特殊能力を持つ。

それをどう思う?」


「……………。

やっぱりそれが何であれ女の敵。

大体にして、なぜ女限定!?

男が来る事は無いの?」


「来る。

来ている。

だがそれは女と違う。」


「それじゃあ、なぜ女神が優遇され、知れ渡るの。

男は何をしているの。」


男尊女卑かよ。

いや、女神はちやほやされているしな。

女卑には当たらないだろう。

それなら男はどこに行った。

隠れて一体何してるんだ。

それに代替わりは有るのか。


「ふふっ。」


なぜかおじさんが笑う。


「なにか?」


「いや、さて転生してきた男の話だが、」


「転生?」


転生?

私の場合は死んでからここに来たわけじゃない。

それなら多分、異世界へ転移したが正解だろう。


「女は転移して女神となる。

男は転生してくる。

やはり代替わりは有る様だな。

だから、生まれはこちらの世界だ。

持つ能力は、この世界に準ずる。

だから騒がれないんだ。」


「ならば女神はあちらから転移して来て、

それなりに能力を付与され、こっちに送られる。

だが男は転生となるから、能力は生まれたこの世界の物しか持ち合わせない。

だから市井に紛れ騒がれない。

そう言う事ですか。」


「ああ。

だが一応転生だ。

向こうでの記憶はある。」


「なるほど。」


転生してきた男はどんな気持ちだったのだろう。

生まれた直後から前世の記憶が有ったならどんな気持ちだったのか。

いや、女神の訳を知ったなら、どんなにやるせなかった事やら。


「だから、前女神が亡くなったから、お前が召喚されて来たと言う訳だ。

そうなんだろう?観月。」


「やはりあなたはあちら側の人でしたか。

しかも私の事を知っている。

誰なんですか、あなたは。」


「さて、誰でしょう。」


愉快そうに微笑むおじいさん。


「まあ誰でもいいです。

私は人を探しているんですから、その人の情報が欲しいだけ。

私の勘が、その人も女神として、こちらに来たのではないかと言っているんです。」


「だが、一定時間に女神は一人だ。

つまり今現在お前が女神である以上、

他に女神はいない。」


知っている、分かってるよ。

合えないと分かっていても、茉莉香先輩に会いたいんだ。


「私も同じだ。」


おじいさんは寂しそうにそう言う。


「会いたい人がいたんですね。」


「あぁ、だが叶わぬ望みだったが。

まぁ、それでも前世の知り合いに会えただけ、良しとしよう。」


「茉莉香先輩が女神となって表れていないか。

そう思ったんですね。都築課長。」


「あぁ、そうだ。」

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