第72話 花咲撫子 その二

 前田先輩は他の男子とは違って私から離れようとするのだ。他の男子は私が話しかけると嬉しそうに尻尾を振ってこたえてくれるのに、なぜか前田先輩は私から離れていく。

 そう言う変わった人もいるのだろうと思えば納得できるのだけれど、私よりもお姉ちゃんと話している時の方が楽しそうなのは納得いかない。どう見たって、お姉ちゃんより私の方が綺麗で話も面白いし、一緒にいて嬉しいはずなのだ。つまり、前田先輩はブス専なのだとその時は思っていた。思っていたんだよ。

 でもでもでもでも、前田先輩の彼女って私には見劣りするけど、世間で見たら可愛い方じゃない。なんで可愛い彼女がいるのに私には見向きもしないんだろう。どうしてなんだろうって考えてみたら、この女とお姉ちゃんの共通点を探すのが一番なんじゃないかって思えてきた。お姉ちゃんとこの女の共通点。同級生って事かな?

 もしも、同い年ってのが条件だったら私にはどうしようもないじゃない。若い方が魅力的だってそのうち気付くかもしれないけど、そうなった時には前田先輩の事を何とも思ってないかもしれないし。ってか、今も別に好きとかではないしね。

 まずは、どうやって前田先輩が私の事を警戒しないかってのを考えないといけないのよね。どうして警戒されているのかはわからないけれど、私だって警戒する相手は何人かいるのよね。

 意外かもしれないけれど、私はお姉ちゃんが何かやってくるんじゃないかって警戒しているの。今は何でも私の言うことを聞いてくれているし、問題は何もないんだけれど、そのうちとんでもない仕返しをされたりして。男を盗られたとかその程度ならいいんだけど、もっと良くないことが起きそうな予感もしているのよ。一応、お姉ちゃんの本当の地雷は踏まないようにしないとね。

 あとは、名前も知らないけど馴れ馴れしく接してくる先輩たちと同じ高校の三年生の人ね。この人の事は何にも知らないんだけど、たまたま散歩コースであった時に話しかけられて、その人の胸を見ていたらなぜか私の胸を揉まれたのよ。自分が大きい胸だからってマウントを取っていいってもんじゃないし、私が胸を揉まれたのは犯罪じゃないかって思っているわ。同性同士だからってやっていい事と悪いことがあると思うんだけどね。

 今ではその人の友人にも絡まれるようになっているし、よくよく見てみるとその友人は目の前にいる女にも似ているような気がしてきたな。ちゃんと聞いていないけど、同じ苗字のような気がしてきた。でも、この人って良くいる苗字だからどうなんだろう。


「ねえ、まー君の事で私が知らないことって何だろうね?」

「さあ、前田先輩が家の中でしてたことくらいじゃないですかね」

「うん、それはわかっているんだけど、いつまでも黙ってないで、何があったのか教えてくれてもいいんじゃないかな?」

「教えてもいいと思うんですけど、前田先輩の過去の事ですし、そんなに気にしなくてもいいんじゃないですかね?」

「あれあれ、さっきまでの威勢はどうしたのかな。もしかして、本当は何も無かったから一生懸命作り話を考えていたりして?」

「そんな事ないですよ。だって、私が後から帰ってきたときにお姉ちゃんと先輩が二人っきりで部屋から出てきたことありますもん」

「ふーん、そうなんだ。その話を詳しく聞かせてもらってもいいかな。いいよね?」


 詳しく聞かせるのは構わないけれど、これはそれほど面白い話ではない。ゲームは居間にあるのだけれど、漫画はお姉ちゃんの部屋にしかないのだ。お姉ちゃんたちは漫画を取りに行っただけだし、それは私がいる時でもよくある光景だった。

 でも、言い方を変えれば、若い男女が密室で二人っきりなのは間違いない事実だ。この女を困らせてやるには、言い方を多少変えてもいいんじゃないかな。


 だって、この女は前田先輩に相応しくないと思うからね。

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