第42話 二年巨乳女子 佐藤みさきの場合

 私の周りには優しい人が多く集まってきてくれている。彼氏のまー君は私には優しいし、お姉ちゃんもずっと優しくしてくれていた。お姉ちゃんは私の事を心配しすぎていて、その優しさが空回りしていたことも多くあったけれど、悪気が無い事は私が一番理解している。

 友達にも優しい人は多くて、千尋は私のためにちょっと嫌なお願いでも聞いてくれるし、最近友達になったさやかは最初の印象と違って私の事を応援してくれる良い人だってわかった時から優しさを感じるようになっていた。他にも三年生の愛ちゃん先輩は小さい時から私に優しくしてくれている。でも、その優しさは少し面倒に感じることもあったので、正直に言うと面倒くさい時があったりする。


 私に優しくしてくれる女の人には共通点が一つだけあるのだ。それは、私に優しくしてくれる女性は全員漏れなく胸が大きいという事だ。世間様から見たら千尋だって年齢の割には大きい胸をお持ちなのだが、それ以上に大きいのがさやかでいて、愛ちゃん先輩はそれをはるかにしのぐものをお持ちでいらっしゃる。

 お姉ちゃんも平均よりは大きいと思うけれど、親友の愛ちゃん先輩が異常に大きいお胸なので目立たないだけであるのだ。私の場合は、控えめでお淑やかな胸なのだけれど、大きい人が周りに多いせいで、相対的により小さく見えているらしい。


 私の彼氏は胸が大きい人に興味が無いようなのだけれど、私以外の胸が大きい族の人達が無駄絡みをしているからなのか、最初は大きい胸にあからさまに迷惑そうな対応をしていたのだけれど、最近では特に気にする事も無く普通に過ごしていた。

 自己主張の激しい胸の人達は、私の彼氏であるまー君に相手にされていないのを感じ取ると、なぜか私にターゲットを絞ったようにウザ絡みをしてくるようになっていた。つい先日も登校中に後ろから抱き着いてきて胸の大きさをアピールする先輩がいたり、休みの日に遊びに行った時には胸元が大きく開いている服を着ていた隣のクラスの女子がいたり、お願いしていた調べ物の報告を受けている時に必要以上にブラ紐を直している親友の同級生がいたりした。最後の千尋は私の被害妄想だと思うのだけれど、愛ちゃん先輩もさやかも夏休みが近いせいなのか、露骨なアピールが増えてきている。それの対象がまー君じゃないだけマシだと思う事にした。


 このままでも巨乳キャラが渋滞を起こしてしまいそうなのだけれど、何故かまた巨乳の先輩と知り合ってしまった。というよりも、お姉ちゃんの紹介で友達になった二年生の女の人だ。

 愛ちゃん先輩やさやかに比べると見劣りはしてしまうけれど、猫背の状態でもお姉ちゃんや千尋よりも胸が大きいのは確実だと思う。顔はあどけなさの残る童顔で、丸い顔を目立たなくさせるためなのかやたらとボリュームのある髪を無造作におろしていた。相当目が悪いのだと思うのだけれど、大きいレンズの眼鏡は瞳を小さく目立たなくさせているので、眼鏡を外すと美人が現れた状態だと思う。

 どうしてそんな先輩を紹介されたのかというと、この先輩は男子に免疫がほとんどなく、このままでは高校卒業後に大変な苦労をしそうだと思い、男友達の多いお姉ちゃんに相談してみることにしたからだった。

 お姉ちゃんに相談したのに私が頭を悩ませている事態になったのは二つ理由があった。

 一つは、お姉ちゃんの友達の男子は信用が出来ないという事だ。普通に友達になれればいいのだけれど、普通の高校生男子がこの豊満な体を目の前にして冷静でいられることはほとんど不可能だろう。そんなわけで、私がどうにかするという話になっていたらしい。

 もう一つは、私の彼氏が巨乳に興味が無いというか、私以外の女性に特別な感情を持たないという事が愛ちゃん先輩の証言で明らかになってしまったからだ。私としては、今まで見た事も無かった先輩が男性関係で苦労したとしても、何の気にも留めなかったと思うし、まー君との時間を削られるのは納得しなかったと思う。

 それでも、協力しようと思ったことには理由があった。人は誰でも無償で働くよりも報酬を貰えた方が嬉しいものだ。今回協力することによって私が得られる報酬は、私の知らない知識を得られることだ。知識はいくらあっても困ることは無いし、私にとって有益なモノならば断る理由もないだろう。


「あの、今日は、その、よろしくお願いします」

「こちらこそ至らない点は多々あると思いますが、よろしくお願いします」

「えっと、その、私は何をしたらいいでしょうか?」

「とりあえず、私の彼氏が来るまではお話しておきますか?」

「あ、そうですね。でも、私は、そんなに話が、得意じゃないんです」

「ああ、何となくはわかります。それに、先輩なんだから敬語じゃなくていいですよ」

「え、いや、その、でも、教えてもらう立場ですし、この方がいいかなと、思ったんですけど」

「先輩が良いならそれでもいいんですけど、私から自己紹介しますね。私は佐藤みさきです。佐藤渚の妹です。一年生なんで先輩の後輩ですね」


 先輩は男の人が苦手だとは聞いていたけど、初対面なら女の子も苦手なのかな?

 とにかく、普通に会話が出来ないのは苦痛でしかなかった。今も固まったまま動かなくなってしまったので、どうしたらいいのだろうか。これが初対面の相手ではなかったならどうにでも出来るのだろうけれど、この先輩は愛ちゃん先輩と違ってデリケートそうだから大人しく待っておこう。


「ごめんなさい。渚先輩からは聞いてたんですけど、想像していたよりもずっと可愛らしい方だったんで見とれてしまいました」


 私の可愛らしさに見とれているなんて嘘でも嬉しいけど、控えめに言ったとしてもお姉ちゃんとそんなに大きく変わらないと思う。それよりも、自己紹介をしてもらわないと何て呼べばいいのかわからない。今は二人だけなので良いのだけれど、ここに二年生の先輩が入ってきたら何と呼べばいいのだろうか。


「あ、自己紹介ですね。えっと、私の名前は操です。松本操です」

「松本先輩って呼ぶより、操先輩って呼んだ方がいいんですか?」

「できれば、そちらの方が、呼ばれ慣れてるので、気付くと思います」


 この先輩と仲良くなれるかはわからないけれど、お姉ちゃんの頼みだし協力しないわけにはいかないだろう。とっておきの知識を得るためにも全力を尽くす。


「で、操先輩に聞きたいんですけど。私のお姉ちゃんはここに来ないんですか?」

「渚先輩は用事があるって、言ってました。みさきさんなら大丈夫だって、言ってましたよ」


 お姉ちゃんはやっぱりここに来ないのだ。そうだとは思っていたけれど、本当に来ないのはちょっと信じられなかった。どんな用事なのかはわからないけれど、どうせたいしたことが無い用事なのだろう。

 私はまー君がここに来るまで操先輩と二人っきりなのだけれど、思っていたよりも人通りが多いのでイジメているように見えないかが心配だった。


「あの、みさきさんの彼氏さんって、怖い人じゃないですよね?」

「私には優しいけど、他の女の人にはどうでしょうね」

「ああ、そうなんですね。でも、今日からよろしくお願いします」


 今日から?

 もしかして、操先輩が男性に慣れるまで協力しないといけないってことなのかな?

 私はちょっとだけ眩暈がしたけれど、それでも操先輩の力になる事にした。どんな知識だとしても、新しい知識を手に入れるのは嬉しい事だ。後は、まー君が来てから考えることにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る