銫夜叉(4)

 F市郊外。

 中心にかろうじて存在する都市部を抜けると、あっという間に田園地帯が広がる住宅地区となる。

 さらにその住宅地区を超えると、隆々とそびえる山々しか存在しない地帯へと一直線なのだが、大裳と六歌の二人が目指しているのはまさにだった。


「ほ、本当に、この近くに発射場所があるのかな……?」


「ア? 天子の言うことが信じられねェっつーのか?」


 先程までミサイルの発射場所の予想マップを元にあちこちを駆けずり回っていた二人だったが、つい今しがた天子から「特定できたよん!」というメッセージと共に、詳細な位置情報が送られてきた。


 その情報を見てみると、市内の端も端。隣接したA県にギリギリ入るか入らないかという場所だった。


「チッ、ミサイルを隠すなら山の中ってか。また面倒なところに隠しやがって……」


「六歌ちゃん。それ、全然上手いこと言えてないけど」


「うるせェ。急ぐぞ。ヒト二人分のも楽じゃねェんだ」


 そう、宇宙夢コスモチュームは変身しても肉体が強化されることはほぼない。そんな二人が現地まで急ぐための手段。

 ――それは、空を飛ぶことだった。


 今、二人の背中にはレモン色の羽が生えている。

 羽は羽ばたくなどの動きを一切せず、まさにといった有り様ではあるが、確かに大裳と六歌を空中に浮かせ、推進力を発生させていた。


 『視界内のものに羽を生やし、自由に飛行させる』。

 それが合羽六歌の宇宙夢コスモチュームの能力『非行少女(バッド・ウィング)』である。


「天子さんからメッセージ! あと三十分でミサイル発射だって!」


「もうちょっとで着陸だ! 舌噛まねェようにおとなしくしてろ!」


 キャビンアテンダント姿の六歌――ユニオン・フライトが叫んだ。


 暫くして、目的地の山腹が見える。


「あ! あれかな!?」


 大裳――ピクス・マミーが指を指した先には、もう暗くなり始めた時刻であるにもかかわらず、遠くからでもはっきりそれと分かる、ミサイルが鎮座している。


「ケッ、シュミ悪ィな!」


「とにかく行こう!」


 ミサイル目掛けて急降下を行う。

 天子からの情報では、発射ボタンを握っているマリー・ゴールドは、ミサイル発射の瞬間を見るため近くにいるというが――。


「オ――――ッホッホッホッホッホ!!」


 甲高い笑い声がし、そちらに目を向けると、ミサイルの根本付近に少女が一人立っているのが分かる。

 縦巻きロールのツインテールに超巨大サイズの真っ赤なリボンを結んだ、いかにもといった容貌だ。


「出やがったな」


「ん? んん? 今、庶民がワタクシ、マリー・ゴールドのことを『きらびやかかつモナ・リザのような美しさをも兼ね備えた完璧な才女』と評すのを聞いたような気が……!?」


「言ってねェよ。クソブス!」


 ユニオン・フライトは急降下していた空中でくるりと向きを変え、マリー・ゴールドを名乗る少女に踵落としを喰らわせる。


 ――だが、まるでダメージは通っていない。


「チッ」


「オ――――ッホッホッホッホッホ!! 『』! 触れたものとはつまり――」


「自分自身でも金に変えられるってことかよッ!」


「あ――ん! ワタクシが言おうと思ってた決めゼリフを!!」


 自分自身を金に変えて攻撃を受け止める。以前の『獏夜』との闘いでマリー・ゴールドが見せた能力の応用だ。


「ですがッ! ワタクシの能力はそれだけではないということはご存知のはず!」


「クソ、さっきのでやがったか!」


 ピクス・マミーが遅れて降下し、ユニオン・フライトの足を見ると一部が黄金化していた。


「これって……!」


「オ――――ッホッホッホッホッホ!! 『』とは別に手で触る以外の方法でも良くてよ!! さらにッ! ワタクシの『最愛(ゴールデン・アイ)』は触れた箇所からじわじわと効果を広げましてよ! まるで『ワタクシを見た人が見ていない人へもその美しさを伝聞で伝えていくように』!!」


「ケッ、オレ様はそんなまどろっこしい言い方をしなくても、『ウイルス』みたいに広がるって言やァ十分だと思うがな!」


「フン、庶民の言葉は聞こえなくてよ」


 ビシ、とポーズを決めたマリー・ゴールドは、続いてピクス・マミーの方を指差す。


「ところで庶民二号。アナタ、ウチのトーキング・フレイムを倒したそうじゃありませんか」


「……!」


「いやね、ワタクシ、別に仇を取るとかそういったことは一切考えてはおりませんの。……ウチのボスは泣きじゃくって大変でしたが」


 ですがッ! と言い、マリー・ゴールドはカッ、と目を見開いた。


「あなたたちのような夢遊者コスモプレイヤー庶民がワタクシたち『獏夜』に傷をつけたということは、あってはならないことですわ」


 マリー・ゴールドは、その場でクルリと一回転し、さらに決めポーズをとる。


「ですので、あなたたちはここで黄金像となって、永遠に苦しんでもらいます! お仲間はミサイルで逝ける分だけ有情かもしれませんわね! オ――――ッホッホッホッホッホ!!」


「ヤツの挑発に乗るな。オメーはやるべきことをやれ!」


 ユニオン・フライトの声でハッとし、彼女の方を見ると、右足のほぼ全てが黄金化していた。


「悔しいが右足はもうほぼ動かねェ。オレ様がもう一度ヤツの動きを止めるから、お前はそのスキにあの金ピカ女からボタンを奪え」


「う、うん! わかった!」


 再び羽を生やしたユニオン・フライトが地上から飛び立ち、マリー・ゴールドに急接近する。


「オ――――ッホッホッホッホッホ!! 作戦モロバレですし、何度やっても無駄無駄無駄の無駄ですわ!!」


「オラッ!」


 ユニオン・フライトの渾身の殴打は全身を黄金化させたマリー・ゴールドには届かない。

 ――しかし。


「空の果てまで……トんで行けッ!」


 マリー・ゴールドの背中にレモン色の羽が生えた。

 次の瞬間には空に浮かび上がるマリー・ゴールド。


「なッ! この羽って――動かせるんですの!?」


「そういう『モード』もあるんだよッ!」


「いやああああああああああ――」


 マリー・ゴールドは宇宙の果てまで飛んで行き――。


「――ああああああああ――――っと!」


 ――暫くして、また地上に降ってきた。


「なッ、馬鹿な! 確かにオレ様の『非行少女(バッド・ウィング)』は――」


「それって、これのことですの?」


 マリー・ゴールドが時分の背中を指差す。

 その羽は、黄金色に染まっていた。


「金に変えて、無効化したってわけか……」


「策とは二重三重に貼るものですわ!! 庶民じゃ一重が限界でしょうけど!!」


「それはこっちの――セリフだよっ!」


「ッ!?」


 マリー・ゴールドは、いつの間にか後ろに忍び寄っていたピクス・マミーに後ろ手を取り押さえられる。


「モザイクを貼って、輪郭をぼやかし、姿を消し、他人の宇宙夢ゆめまで消す。それが、私の宇宙夢コスモチューム『神隠し(アンダー・ブラインド)』だッ!!」


「フンッ! そんなモザイクメッキ、ワタクシの本物で剥がしてご覧に入れますわ!!」


 ジワジワとマリー・ゴールドの身体を侵蝕しつつあったモザイクを、黄金が押し返す。


「くうううううううううううううううううううううううううううううう!」


「ぬうううううううううううううううううううううううううううううう!」


 勝負は、五分後についた。


 を、二人の夢遊者コスモプレイヤーの少女が肩で息をしながら見下ろす。


「疲れた――!」


「ケッ、まだ終わってねェぞ」


 ミサイル発射ボタンのを進めながら、ユニオン・フライトは呟く。


「この勝負はコイツの勝ち逃げってことにするとしても、だ――」


「――ミサイル、どうしようね……」


 発射まで、あと一分。

 飛翔体が、飛び立とうとしていた。

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