銫夜叉(1)

「――というわけで、これらが私の知る『夢遊者コスモプレイヤー』の全て。まあ、びっくりだよね。いきなりこんなこと言われても」


 トーキング・フレイムとの戦闘が終わり、変身を解いた二人は、どちらから切り出すということもなく宇宙夢コスモチュームの話をしていた。

 星羅は、大裳が以前からの知り合いだったらしいトーキング・フレイムを殺害してしまったことを気に病んでいるのではないか、という気遣いからわざわざその話題を提供したのだが、その心配は無用なようだった。


「ま、まあ。びっくりはびっくりですけど、私自身が夢遊者コスモプレイヤーになっちゃったから……。信じます」


「アハハ、良かったよ。時々いるんだ。全てが信じられなくて自暴自棄になって『獏夜』に入っちゃう子とかね」


 それで、と星羅は急に真面目な顔になって切り出した。


「さっきの話と私の『小説』で大体把握してると思うけど、ここのところ『春眠』と『獏夜』の抗争が激化していてね。まあ、無理強いはしないんだけど、できれば大裳さんにも『春眠』に加入してもらえると嬉しいなって……。ああ、これじゃあトーキング・フレイムとあまり変わらない誘い文句だね」


「あ、いや……」


「まあ、返事は今じゃなくても大丈夫。他のメンバーだったら急かしてくるだろうけど、私は、ほら、穏やかな性格でしょ? だからよく考えた後で――」


「『春眠』に入りたいです!」


 大裳は星羅が誘い文句を終わらない内に、今までに聞いたことのないような大きな声で返答した。


「え、本当に? 本当にいいの?」


 コクコクと一生懸命に頷く大裳を前に、星羅は逆に困惑した。


「私、ずっと前からこんなに憧れてて、でも叶わなくて……。でも、だから、星羅さんの役に立ちたいんです!」


「……なるほどね。私の役に……。うん、そっか。ありがと」


 星羅はなんだか照れているような、それでいて悲しがっているような表情を一瞬見せ、またいつものいたずらっ子のような笑みに戻った。


「じゃあさ、行こうっか。私たち『春眠』のアジト。そんなに広くないけど、けっこー居心地いいよ」


「は、はいっ……!」


 二人は駅を抜け、大通りから離れた工場地帯に歩き出した。


(『私のために』、か。大裳さん。嬉しいけど、それは。非常によ)


 星羅はひとり思いを巡らせる。


(知り合いを返り討ちとはいえ殺し、それをあまり気にするそぶりもなく非日常を渇望する。それは、まるで『』みたいじゃあないか――)


 でも。


「――の二の舞には、させない」


「ん? 何か言いました?」


「おっと、何でもないよ。さ、こっちこっち!」


 そして、二人は進む。

 ひとりは、希望を抱きながら。

 ひとりは、懸念を抱きながら。


 いつの間にかできあがった二人の火種は、まだ燻ってさえいない。

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