十二天将飼殺し(3)
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
朱藤と星羅の二人は依然として睨み合いを続けている。
大裳はあまりの緊迫感に耐えることができず、思わず唾を飲んだ。
それが始まりの合図だった。
朱藤――『トーキング・フレイム』が木製の床が抉れるほどのパワーで地面を蹴る。
大裳がヒッ、という間に彼女は星羅――『シークレット・グース』の目の前に現れてた。
そして、トーキング・フレイムの渾身の打撃がシークレット・グースの額を捉える。
だがシークレット・グースは躱そうともせず、「手」と呟いた。
すると、攻撃していたはずのトーキング・フレイムの拳が砕けた。
苦痛に顔をしかめ、だがトーキング・フレイムは攻勢を緩めない。
そのまま砕けていない方の手を地面についたまま、カポエイラの要領で蹴りを繰り出す。
今度もシークレット・グースは避けずに「足」と呟く。
するとやはり、攻撃した側であるトーキング・フレイムの足の骨が折れる音がした。
しかしトーキング・フレイムは攻撃を仕掛ける。
何度も何度も、足の肉が裂けようが、手の骨が砕けようが攻撃し続ける。
「もうやめにしないか。見ていて痛いだけなんだけど」
シークレット・グースはトーキング・フレイムに声をかける。
「あたしの『再生灰燼(リヴァース)』が貴様の『弱視(ウラサイト)』を超えるまでの我慢比べだ。もう分かってるんでしょ。詰んでるのはそっち」
トーキング・フレイムは苦痛に顔を歪めながら、ひたすら殴る蹴るを繰り返す。
シークレット・グースの宇宙夢『弱視(ウラサイト)』は、『弱点を創造する』能力である。
本来弱点ではなかった場所に弱点を『創り出す』。それによって「手を額で」砕いたり、「足を腹部で」裂いたりできるのだ。
もちろん「対象を広く長く設定するほど効果が弱まる」という制約は存在する。
だが、「全身」ではなく、「手」や「足」といった部分をインパクトの瞬間にのみ設定してやれば、戦闘特化型だろうが夢遊者一人を完封するには十分事足りる。
そんな最強ともいえる彼女の宇宙夢に対抗できる能力は限られていると言っていいだろう。
しかし、トーキング・フレイム。彼女の宇宙夢は――。
「ほら、段々押してきた。貴様が散々あたしの身体を破壊してくれたからだ!」
『弱視(ウラサイト)』に対抗しうる。
時間が経過するにつれ、トーキング・フレイムが攻撃しても拳や足が壊れないようになってきたのだ。
むしろ、逆に『治っている』ような気さえする。
状況が把握できない大裳でさえ、何かヤバい気がした。
『再生灰燼(リヴァース)』は名前の通りダメージを受けても灰とともに再生する宇宙夢である。
それだけであれば、まあ『いるだろう』というレベルの能力だ。
しかしその再生には、『自己強化』という『特別なおまけ』が付いてくる。
『ダメージを受けるたびに、死ぬたびにどんどん強くなる』宇宙夢というのが彼女の能力の本質なのだ。
つまりそれは『弱点が段々と弱点でなくなっていく』ということを意味していて――。
「……か、はっ」
「やっと一撃入った」
シークレット・グースは身をくの字にして倒れ込んだ。
「今まではそっちの援護のせいでこの戦法をとらせて貰えなかったけど、今日は別だ」
トーキング・フレイムはフューネラルドレスのリボンを直すと、拳を構えた。
「あたしの仲間を殺し、タモっちとの友情を台無しにした罪、あの世で償え」
「……は…………」
呼吸をするのも苦しそうなシークレット・グースが何かを呟く。
「何? 辞世の句でもしたためてるわけ?」
「いや、『これだけは使いたくなかったんだけど、仕方ないか』って言ってたんだ、よ!」
そういうが早いか、シークレット・グースは床を強く叩いた。
喫茶店の床を弱点に設定し、攻撃。
それによって、床の崩落に巻き込まれたトーキング・フレイムは階下に叩きつけられることとなった。
「ぐっ、一撃しかもらってないはずなのに……。こりゃ鍛え直さないとな」
痛みに耐えながら起き上がろうとするシークレット・グースを大裳は抱え起こした。
「だ、大丈夫ですか……?」
「アハハ、まあね……。ただ、すぐに逃げたほうがいい。『トーキング・フレイム』の再生はもう済んでいると思う」
「そ、そんな……。あなたを置いて逃げるだなんて……! そ、それに聞きたい話も色々あるし……」
「それは『小説の』宇宙夢の話かな? それとも『現実の』宇宙夢の話?」
「っ……!」
「両方、ね。まあ、当たり前か。だって私が来たのは『現実の』宇宙夢についての話をするためだったんだから。ね、『調整の揺らぎ』を受けない『末堂大裳』さん?」
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