十二天将飼殺し(2)

「――ねっ、『未堂大裳さん』?」


「え?」


 未堂大裳みどうたいもはまじまじと目の前の少女を見返した。

 艶めいた黒髪、ラバーのような材質のパンツ、そして、「BLACK」とデカデカと印字された上着。

 やたらめったら黒を強調しているその姿に大裳は面食らう。


「な、なんで、私の名前……」


「? さっき呼ばれてたじゃん」


「そうでしたっけ……?」


 そうだっただろうか。呼ばれていない気がする。

 しかも全身黒の少女が店に入ってきたのは、ついさっきのことではないか。


「おっと、自己紹介が遅れちゃったね。私、コクヨムで『宇宙夢』を連載しています、『じゅぴ太』――こと、『大木星羅おおきせいら』です。『星羅』でいいよ」


「あ……」


「アハ、だめだよ。『未堂大裳』さん、インターネットを本名でやっちゃ」


 そうか。そう言えば、『じゅぴ太』さんから事前に「黒っぽい服!」というメッセージが着ていたことを思い出した。

 それにしても――。


「黒すぎる……」


 いつの間にか、思ったことがそのまま口から出ていたようだ。


「アハハ、よく言われる。まあ、積もる話もあるんだけど、とりあえず『トーキング・フレイム』にみつかっちゃったし、逃げよっか?」


「トーキング……? な、何?」


 イマイチ状況が飲み込めない。

 逃げる? 誰から? なんで?


 そう考えを巡らせていると――。


「『シークレット・グース』ッ!!」


 完全に蚊帳の外に置かれていたと思っていた朱藤雲雀しゅとうひばりが、この世のものとは思えないような恐ろしい叫び声を上げていた。


「アハハハ、なんであんなに怒ってるんだろ。まあいいや。ほらほら、逃げなよ」


「え、逃げ……?」


「いやさ、私一人ならともかく、大裳さんは『宇宙夢』も持ってないんでしょ? そりゃあちょっと勝てないよ~。負けないけど」


 あくまであっけらかんと逃げるように促す『じゅぴ太』こと『大木星羅』。


「……貴様、あたしから『仲間』だけじゃなくて、『友達』も奪うのか!?」


「いやいや、あれはしょうがないさ。こっちだってめちゃくちゃ被害出たし」


 理由はよく分からないが、朱藤は星羅に対して、キャラが変わってしまうほどの憎悪を燃やしているようだ。


「問答無用ッ! 『コスモ・トランス』ッ!!」


「アハハ、しょうがないなぁ。『コスモ・トランス』!」


 『コスモ・トランス』……。どこかで聞いたことのある言葉だ。

 どこかで聞いたことがあるというレベルではない。目の前にいる、大木星羅の小説 『宇宙夢』に出てくる『夢遊者コスモプレイヤー』が変身する時の掛け声ではないか。


 いや、問題はそこではない。目の前にいる二人の姿があっという間に変化していく。

 そう、あの小説に出てくる登場人物のように。


 朱藤はフューネラルドレスを身に纏った姿に、星羅はモノクルを右目に装着したひと昔前の探偵のような姿にそれぞれ変身した。


「そうそう、『うっかり』伝え忘れていたけれど――」


 星羅は再びあのいたずらそうな笑みを浮かべ、大裳に語りかける。


「――『宇宙夢』。あの話は全て『本当の出来事』だよ」


 大裳の背筋がぞくり、とした。

 それが恐怖によるものだったのか、歓喜によるものだったのか、それはまだ大裳にも分からない。

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