《OutCast》シリーズ【BL×異能×現代風異世界】
『未知の快楽ゆえに』-(春丞×燈哉)
「絶対ヤダッ!!」
とある日の朝。
俺は起床するなりそう叫んだ。
もちろん、怒りマークを添えて――。
――『未知の快楽ゆえに』――
日本の都に本部を置く、大規模異能部隊〈D.C〉は、精鋭揃いとして世界的知名度の高い異能部隊だ。
そして、そんな精鋭部隊所属の上級戦闘員である俺――重力操作の異能者である
いくらベテランとはいえ、非番日の朝っぱらから人狼に襲われれば取り乱すに決まっている。
「あの、燈哉さん」
銀色の毛並みのその人狼は、でかい図体に反しおずおずと言った様子で、わざとらしく“さん”とまで付けて俺の名を呼んだ。
しかし、そんな様子から、そいつの意図をすべてを悟った俺は即座に大声で叫んだ。
もちろん喰い気味で。
「絶対ヤダッ!! “その状態”のが入るワケねぇだろ!! シたいなら戻れ!!」
すると、そんな俺の言葉を受けた人狼は、またおずおずとした様子で言った。
「……その、興奮しすぎて戻れなくなっちゃ――」
「じゃあダメッ!!」
しかし俺はそんな様子に構う事なく、今度はその言葉を遮るようにして吠えた。
そしてそれと同時に、出会い頭に突然ケツにのしかかってきたオス犬にブチギレるメス犬の気持ちを理解した。
確かにこれはキレていい。
俺はそう思った。
もちろん、今この瞬間までは――何もそこまでキレなくても――と思っていた。
だが次からは――わかるぞ――と思うようになるだろう。
「――そんなぁ……、先っちょだ――」
「ムリッ!! ――つぅか先っちょも入んねぇよ!!」
しかし、メスに吠えられたオスは大抵引き下がるものなのだが、このオスはまったく引かないどころか、なおも駄々をこねた。
俺はそれにまた一吠え返す。
だが、やはり返ってきたのは駄々だった。
「えぇ……俺もう我慢できな――」
「去勢すんぞッ!!」
俺はまたそれに吠え返す。
だが、――とはいえ、だ。
俺の場合、そんなメス犬よりかはかなり寛容な方で、更に言えば快楽に貪欲だ。
だから、単純に起き掛けに性交渉を申し込まれるくらいならばやすやすと受け入れる事はできる。
むしろ自ら許容する可能性が高い。――まぁ、動物の交尾自体は痛みを伴うらしいと聞いたから、その点でもメス犬がキレるのは分かる。
ただ幸い、俺達人間はそれなりに開発と手順を踏みさえしてしまえば、痛みのない性交渉によって快楽を得る事ができるわけだ。
――が、しかし。――そう、しかしである。
今この事態に至っては、流石にやすやすと許容する事はできない。
何せ今、俺との性交渉に関する交渉を続けているこの人狼は、文字通り“でかすぎる”のだ。
色々な意味で人間サイズではない。
いくら快楽好きの俺とはいえ、これは受け入れたことのないサイズだ。
因みに、今でこそ“人狼状態”だが、俺に交渉を続けるこの人狼は、元々は俺と同じ人間なのだ。
ではなぜこいつ――俺のバディであり恋人でもある
イヌ型獣化の異能者であるこの春丞と俺は、異能者学校中等部時代からの付き合いだが、こいつはその頃から興奮時の異能制御が下手だった。
そして、――大分マシにはなりはしたが――上級戦闘員となった今もなお春丞は、興奮時に異能制御がきかなくなる時があるのだ。
特に、欲情による興奮に関してはからっきし成長できていない。
それゆえに今もまた、欲情によって人狼状態から元に戻れなくなった春丞は、此度の性交渉に対する合意を俺から貰えないでいる――というわけだ。
一応の事、元からこいつのサイズは上物だったから、俺も別段でかいのに慣れていないのでも、嫌いなわけでもない。
だから、でかいという点はむしろ歓迎すべき事なのだ。
だが、とはいえそれは“人間規格”での話だ。
今のこいつは、一目見て分かるように人間規格の範疇外にいる。
だからこそ、流石に無理であろうと俺の脳と本能が判断した。
だからこそ俺は今、眼前のでかい狼の顔に左手を添え、必死の抵抗をしているのだ。
だが実のところ、不運にも俺の股は既に大きく開かれている状態だ。
寝込みを襲われたがゆえに、飛び起きようとした瞬間に春丞に両脚を掴まれてしまったのだ。
そしてそんな春丞の右手は今、俺の左腿をがっしりと掴んで押し広げているし、左手は俺の右足首をがっしりと掴んでシーツに押し付けている。
一応、上下のインナーはしっかりと身に着けていたので全裸ではない。
昨晩、営みを終えた後とはいえ、怠けた就寝をしなかった自分を褒め称えたい。
だが――、筋力を極限まで鍛え上げておかなかった事は責め立てたい。
今はまだ、春丞が“俺の合意を得てから”という気持ちを保てているからこそ、俺と俺のケツは無事でいられているのだ。
だが、もしもこのまま春丞が自分自身の欲情に負ければ――。
(………………)
俺は、眼前に迫る春丞の鼻先から少し下に視線を移し、肌が粟立つのを感じた。
春丞は普段から、いつ獣化状態になっても問題がないよう、幾分かだぼついたボトムを着用する事が多い。
だから普段であれば、ボトムさえ履いていればそこまではっきりとはそこの主張が見て取れるわけではないのだ。
だが今はハッキリとそれの主張が見て取れる。
つまりそれは、興奮のレベルはもちろんの事、やはりそれが規格外であるという証拠といって良いだろう。
「燈哉」
そんな、何もかもが規格外の事態に気圧されていると、春丞がやけにゆっくりと俺の名を呼んだ。
それは随分と穏やかな口調であった。
だが、表面上はそうであれ、いつもよりも酷く低いその声に激しい欲情が込められているのは分かっている。
俺はその声色に刺激を感じながら、言葉での抵抗を続けた。
「――マジで、無理だって……」
そしてそんな中、もう一つ分かっている事がある。
恐らく春丞は、もう既に気付いているのだ。
「痛かったらすぐやめるから」
「……――途中でやめられるほど余裕ないだろ」
沈黙が作られ始めるのは揺らいでいる証拠。
「まぁ……余裕はないけど……――でも俺、燈哉が嫌がったらどんなに興奮してても体が動かなくなるから」
「………………」
そして春丞は、俺の事を誰よりも知っている。
「燈哉もそれは知ってるでしょ」
だから、既に春丞には気付かれているのだ。
「痛くないように、ちゃんと時間かけてするから」
俺が抵抗した理由は、痛みが生じる可能性があるからというだけで――、
「それにさ、――燈哉、知ってる?」
苦痛さえ感じないならば――、
「ちゃんとしたら痛くないどころか、むしろハマる人もいるって」
不可能でもなく、経験者すらも多く存在するならば――、
「AVやってる人でも、そのジャンルの仕事してハマったって人も結構多いんだって」
そこに感じたこともない強烈な快楽があるならば――、
「人同士じゃなかなかない快感なんだってさ」
それならば――。
「………………」
すっかり沈黙した俺を前に、春丞もまたそこで言葉を切った。
俺はそんな春丞の言葉を反芻しながら、心音に脳を強く殴られる中、ひとつ呼吸した。
そして、ゆっくりと春丞の金色の双眸に視線を移した。
「――うん」
すると春丞は満足げにそう言った。
酷く優しい声色で――。
しかし、それにもまた激しい欲情が込められている事は、探らなくとも分かる。
そして春丞もまた、はっきりと感じ取ったのだろう。
俺の中で、自らを防衛する為の本能が、欲情を従えた好奇心に敗北した事を――。
Fin.
===後書===
この度は、本作をご覧頂き誠に有難うございました。
お楽しみ頂けましたようでございましたら幸いでございます。
また、コチラは拙作の1コマ漫画
『はじめてのじゅうかん』(《OutCast 1pc Comics BL Side》収録作品)
の小説スピンオフ作品となっております。
ただ、カクヨム様で挿絵機能がない為
もし将来的に挿絵機能の追加が御座いましたら
その際は挿絵を追加させて頂きます。
そして、いつも通りの余談ではございますが
執筆活動におきましては、皆様のお気に入りやご感想などが活動の励みになります。
もしお気に召して頂けましたら、是非宜しくお願いいたします。
その他、ルビが欲しかった漢字、掲載形式(1頁に表示される文字数をもっと少な目にしてほしいなど)に関するご要望なども今後の参考になりますので、お声をお寄せいただけましたらと思います。
それでは、こちらまでご覧頂きました方々、本当に有難うございました。
今後も精進してまいりますので、これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
SJ-KK Presents
偲 醇壱 (BL名義・化景 吉猫)
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