21 ノボル/登

ザクッザクッ…トントントントン…冷蔵庫の中にキャベツが沢山あったから、今夜は広島風のお好み焼きを作ることにした。今日は珍しく仕事が早く終わったので、結子さんの代わりに僕が晩ご飯を作る。麺はほぐして、水と小麦粉は混ぜておく。

「のぼる〜ごはんまだ〜?」

後ろからおしりをポコポコ叩かれる。

「もうちょっと我慢してね、きっともうすぐみんな帰ってくるから」

切った大量のキャベツをとりあえずガラスのボールに移してラップをかける。山盛りになっているが、なんとか入った。

「むり〜!はらへってしぬ〜!」

「仕方ないな、これあげるから」

僕のエプロンのポケットに入れていたスニッカーズを渡す。大袋に入って売っている、小さいやつ。彼女にあげる用だ。

「ありがとう」

ふたつくくりにした髪を傾けてニヤリと不器用に笑う姿が可愛い。つい甘やかしてしまう。

「お母さんには内緒だよ」

「うん!」

もうバレている気もするけれど。

「ただいまー」

「おかあさん!おかえり!」

司は急いでチョコレートをスカートのポケットに隠す。一瞬スーツ姿の恵美さんが僕を睨んだが、気付かないフリをした。

「あ、おかえりなさい」

「あれ?結子さんは?」

「部屋で仕事してる。今日のご飯は僕が作るよ」

話している最中に玄関が開いて沙耶が入ってきた。なぜか息を切らしている。どうしたんだろう。

「沙耶、大丈夫?」

エプロンで手を拭きながら沙耶のもとへ駆け寄る。

「さやおかえり〜!」

「おかえり。どしたの?」

恵美さんの質問に、息を整えながら沙耶が答える。

「家の前の道、歩いてたら、え、恵美が見えたから、走って追いかけたんだけど、追いつかなかったっ」

グレーのスカートスーツにヒールのあるパンプスを履いた恵美さんと、白いシャツにジーパン、スニーカーの沙耶を見比べる。沙耶ってもしかして走るの苦手なのかな、知らなかった。

「司ちゃーん、ただいまー」

沙耶が司にキスしようとして小さなパンチをくらう。

「やめろばか」

「今のは沙耶が悪いからね」

恵美さんが娘のフォローをする。沙耶、僕ならいつでもオーケーだよ。小さな女の子にヤキモチを焼くなんて我ながら痛々しい。

「登ただいまー」

司にするのを諦めて沙耶が僕の頰に口付ける。

「ご飯まだ?」

僕の目を覗き込んで沙耶が司と同じことを言うから、おもわず笑ってしまう。

「なんか変なこと言った?」

「言ってない、待ってて、すぐ作るから」

「司、もうすぐご飯できるから結子さん呼んできてくれる?」

「私が行ってくるよ」

司がソファーで足をばたつかせて暇そうにしていたので僕がお願いすると、沙耶が遮って結子さんを呼びに行った。すぐに降りてきてくれるといいんだけど。

「じゃあ司はテーブル片付けてくれるかな」

「はーい!」

司がテーブルに乗っていた本や小さな黄色い鞄をラグの上へ下ろす。恵美さんが空いたテーブルを拭いて、箸と取り皿を運んでくれる。形も大きさも違う五つの白いお皿がテー ブルに並べられる。焼きあがったお好み焼きを大きな器に移してテーブルの真ん中に置いた。沙耶と結子さんはまだ降りてこない。

「つかさがよんでくるー」

待ちきれなくなった司が2階へ行こうとするので、慌てて止める。

「僕が行ってくるから、お母さんと先に食べてて」

「ほどほどにねー」

恵美さんが司の小さな白いお皿にお好み焼きを取り分けながら僕に向かって言った。僕はそんなつもりないのだけど。

「なるべく早く降りてきます」

コン コン コン

ノックをしてからゆっくりと結子さんの部屋のドアを開ける。案の定、ふたりはベッドの上で唇をあわせていた。脱いだシャツやパンツや靴下が床に散乱している。僕に気づいた沙耶が、悪代官みたいな笑みを浮かべて手招きした。


〈終〉

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しろで包む ぱんにはむはさむにだ @natu6

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