07 ケンジ/健司

「健司~ 頼みがあるんだけど」

講義が終わって教室を出ようと立ち上がると、和樹が声をかけてきた。面倒くさい。

「断る」

「いやまだ何も言ってないし。佑太がさあ、合コンのメンバー集めてるんだけど行かない?」

「俺そういうの、興味無いから」

お前らと遊ぶような女、俺は嫌いなんだ。

「お前連れて行かないと、俺まぜてもらえないんだよ」

「残念だったね」

「そういえば漫画、面白かった?」

…こんな奴から借りるんじゃなかった。次からは自分で買うか。

「いつ?」

「今週の日曜」

「金無いけど」

「俺が立て替えとくよ。時間と集合場所メールするわ。サンキュー」

そう言うなり佑太の方へ駆けていく。まだ行くとは言ってないのに。漫画より高くつくじゃないか。踏み倒そう。早速話を聞いたらしい佑太が、和樹のとなりに並んでこっちに手を振っている。気色悪い。



集合場所に行くと、何故かそこに沙耶の姿があった。ピンクや水色のヒラヒラのかたまりの中に、明らかに場違いな黒のトレーナー。珍しくスカートを履いている。裾の広がった淡いグレーの透ける布の下にもう一枚、光沢のあるグレーの布がきれいに重なってふくらはぎから上を隠している。沙耶、スカート持ってたのか。

「おまえ、なんでこんなとこにいんの?」

「タダでおいしいもの食べられるって聞いた。健司はよく来るの?」

「あんまり」

沙耶が来るなら来てよかった。スカート履いてるし。いや、こんなところで会いたくはなかったけど。ちゃんと話を聞くと、風邪をひいた友人の代わりらしい。横から佑太が割り込んでくる。

「お二人さんしゃべり過ぎ!お楽しみは後でね」

沙耶を連れてふたりだけでどこかへ行きたくなったが、きっと彼女に断られるだろう。 店に入ると暗めの照明に落ち着いた雰囲気の個室に通され、長いテーブルの両側に六脚ずつ椅子が置いてある。片側に沙耶や他の女が座り、反対側に男が座る。沙耶が右端に座った。俺も端がいいな。

「健司はここー」

佑太に引っ張られて中央に座らされる。正面で顎の尖った女が薄気味悪い笑みを浮かべている。隣に座った佑太を睨むと、何をどう勘違いしたのか、

「可愛いでしょ。ナオちゃん。俺が狙ってんだから邪魔するなよ」

と耳元で囁いてきた。沙耶の方が可愛いだろ。こいつ目悪いのかな。もう一度正面を見る。ナオちゃんとやらと目が合う。沙耶を見る。料理のメニューらしき冊子を真剣に見つめている。コースで予約しただろうから、メニューを見ても仕方がないと思うのだが。合コンの参加者全員が席に着くと、泡を含んだ薄ピンクの液体が入った人数分のシャンパングラスが運ばれてきた。早速佑太がしゃべり始める。

「とりあえず、乾杯はみんなシャンパンでいい? 飲み放題だからあとから好きなもの頼んでね」

「はーい!」

積極的な感じの男女数人が返事をする。

「じゃあ早速!今日の出会いを祝して、かんぱーい!」

「かんぱーい」

沙耶も恥ずかしそうにグラスを持ち上げている。まだ飲んでいないのに、頰が赤い。ぼんやり眺めていると持っていたグラスに周りの連中がグラスをぶつけてきたので、危うくこぼしそうになる。沙耶も同じ目に遭って慌てている。やっぱり、可愛い。

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