03 ツカサ/司
豆乳ラテを飲みながら 「ぶらんこ乗り」という名前の文庫本を読んでいる。僕の家には小さな図書室みたいに本棚がたくさんある部屋があり、よくそこから勝手に拝借している。この本は表紙に惹かれて読むことにした。今日は母さんの誕生日だからご馳走を作ろうということになって、一緒に買い物をするため駅前のドトールで沙結を待っている。後ろから甘い香りが近づいてきて、僕の目の前に湯気を立てたコーヒーカップが置かれた。
「お待たせ」
制服姿の沙結が僕の向かいに座ると早速カフェ・モカをひと口飲んだ。
「おいしー、で、今日なに作ろっか?」
楽しそうに話し出したと思ったら、僕の背後を見て急に青ざめる。
「何?」
振り返ると、店に沙結と同じ制服姿の女の子たちが入ってきたところだった。
「うっそ、ブタ子って彼氏いたの?」
「そんなわけないでしょ」
「格好良くない?」
「お兄さんとかじゃないよね、全然似てないし」
こちらに聞こえないように話しているつもりみたいだけど、全部聞こえてしまっている。
「こんにちは、私たち沙結さんのクラスメイトで仲良くさせてもらってます」
ひとりの女の子が近づいてきて僕に向かって言った。肩までのこげ茶色の髪を緩く巻いている。
「どーも」
とりあえず挨拶をして沙結を見ると、俯いてしまっている。仲の良い友人ではなさそうだ。
「えと、沙結の彼氏さんですか」
「違うよ」
沙結の消えそうな声を僕の冷たい声で隠す。
「そうだけど、何か用?」
「ごめんなさい、お邪魔しました」
女子高生たちは何も注文せずに外へ出て行った。歩きながらこちらをちらちら見て何か話している。
「ごめん。沙結の友達に嘘ついちゃった」
「別にいいよ、友達じゃないし」
寂しそうな、ふてくされたような顔でカフェ・モカをすすっている。
「司はいいよね、細いし、きれいだし。私なんか、目は小さいし、ブクブク太っちゃうし。同じもの食べてるのに」
「僕は沙結のこと可愛いと思うよ」
沙結の赤ちゃんみたいな頬っぺたが赤くなる。
「変なこと言わないでよ」
僕より沙結の方がずっと魅力的だと思うのだけど。沙結に言ったら本気で怒られそうなので言わないでおく。いつだったか母さんに『私じゃなくて父親に似てよかったね』と言われたことがあるが、会ったことがないのでよくわからない。
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