19.4

 俺の様子に気付いたヤンが、料理人に体の温まるものをと伝えていたらしい。昨日は早く眠ったのもあって、酷くならずに済んだようだ。ヤンに周りのことによく気付くと言えば、俺のことだから分かるのだと返ってきた。可愛い。愛おしくてたまらない。

 人のことを完全に理解するのは不可能だ。それが家族であっても、不可能だと俺は思っている。しかし、ヤンになら。ヤンにだけは、俺のことを分かってくれる、分かってくれていると思える。安心できるし、負い目を感じることなく頼れる。その分、俺のことも今までよりずっと頼りにしてくれていると感じられるし、ヤンは俺のそばでなら安心してくれていると思う。言い方は悪いかもしれないが、油断をしてくれるのだ。以前は誰に対しても決して警戒を解かなかったヤンが、だ。そう考えると、俺はヤンにとって理想の夫に近づけているのだろうと感じることもある。俺にとってのヤンは、間違いなく理想の妻で、生涯を共にするならヤンしかいない。ヤンにも、そう思ってもらいたい。


 子供にとっての理想の父親にもなりたい。そうは思うが、彼、または彼女がどういう理想を持つか。それはまだ分からないのだ。

 今あれこれ思案して考えを凝り固めてしまうより、全力でその日その日に向き合いたいと思う。


 今夜も早く寝ようと思う。俺が倒れたら、何よりヤンを悲しませると知っているから。

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